登山を始めてから4年目に突入しました。
一時は休んでいた時期もありましたが、日本全国いろいろな山に登り景色を見て、写真を撮ってと今では一番の趣味な登山。
そんな風に楽しんでいる様子を毎度ブログ記事でご紹介していますが、ヒヤリハットな事例や恐怖体験の詳細は書いていなかったりします。
感動の瞬間に出会える登山は、一歩間違えると遭難や死に繋がることもある危険な側面も。たとえ死にはしなくても精神的に追い詰められるような状況にも遭遇します。
毎年多くの方が亡くなっているのも事実。
今回は、私自身がこれまでに経験して危なかったことや怖かったことを体験談としてまとめました。
登山で起こる様々なリスクや失敗談を知ってもらい、安全登山に役立ててもらえたらなと思っています。
1. 過度の疲労と悪天候による低体温症のリスク
北海道の大雪山から十勝連峰まで日本を代表するような大縦走路を歩いていました。
縦走最終日には疲労困憊。十勝連峰の稜線では強風と大雨が私をまるで叱るかのように襲ってきました。
登山計画を途中で大きく厳しい方へと変更した登山でした。食料や水の状況、自分の登山経験からすると背伸びした縦走だったと思います。体力、気力ともにギリギリだったのは最終日の天気が悪かっただけではなく、総じて実力が足りていなかったから。
稜線の避難小屋に着く頃には寒さに震え、自分の手が真っ白になっていたのをよく覚えています。
リスクと危機的状況に陥った原因は?
リスクは低体温症および過労による行動不能。
原因は自分の能力を超えた登山計画で動いたこと、ギリギリ達成できるコンディションに悪条件が加わったことです。
元々の計画は、大雪山(旭岳)からトムラウシまで縦走する予定でした。
しかし、時間に余裕があることで欲を出し、トムラウシから更に遥か先の十勝連峰(富良野岳)まで歩くことに。しかし、トムラウシから先のコースは歩く人も少なく、登山路の難易度はよく整備された大雪山と比べると桁違いに高かったのです。
大雪山~十勝連峰の縦走と言えば熟練者向けのコースですが、怖いもの知らずの当時、なんとこれが人生初の縦走。自転車日本一周中で体力が充実していたことが、幸か不幸か私をこの縦走に駆り立てました。
うまくいっている時は感じないのに、天候が悪化したり条件が悪くなると襲ってくるのが疲労です。
疲労の上に雨風に打たれると低体温症のリスクが飛躍的に高まります。
同時に、疲労は判断力を鈍らせ、悪天候は焦りを生みます。早くこの状況から抜け出したいと焦ったり、悪天候の中を闇雲に動いてしまうかもしれません。衰弱や焦燥が遭難、さらには低体温症、最悪の場合死へとカウントダウンが始まることも…。
防止策と予備知識:疲労と低体温症
登山計画が経験や実力の120%に基づくものなら、それは危険な計画かもしれません。
予想外の悪天候に遭遇したら?道に迷ったら?行動不能になったら?
ロングトレイルや体力を使う計画ではより一層「もし…?」のリスクを考えておくことが重要だと感じました。
低体温症のリスクを減らすためには雨が降り始めたらすぐにレインウェアを着ること、襟元、袖口、足首などから雨水が侵入しないか確認すること。雨風を凌げる場所があれば無理をせず停滞を考えること、行動するなら補食してエネルギーを切らさないこと。
そして何より落ち着くことです。
危機を切り抜けられた要因は?
私は上ホロカメットクの避難小屋でコーヒーを飲んだことが良かったと振り返っています。
また、避難小屋にもう一人来たことで会話が生まれ、冷静さを取り戻しました。
避難小屋にて撤退を覚悟した直後、稜線が雲から抜けて雨はやみました。幸運にも助けられたのです。
2. 不慣れな登山計画と不十分な体力によるビバーク
北アルプスの餓鬼岳は、私がはじめてテントを担いで登った山です。山小屋でテント泊をする予定でしたが、計画叶わず道中でのテント泊を余儀なくされました。
幕営指定地以外でのテント泊が禁止と言うのは周知の事実です。罪悪感を覚えながらも、雨の中で引き返すことも登り切ることもできず、ビバークを余儀なくされてしまいました。
リスクと原因
計画通りに進めないと焦りが生まれ、的確な判断ができないことがあります。
様々な思いからビバークの決断ができず、闇雲に進んでしまえば遭難や低体温症のリスクが上がります。
今回の原因は自分の実力を過信して、出発の時間が遅かったことや体力不足で厳しい道を歩き切ることができなかったから。
北アルプス初めてのテント泊で雨の餓鬼岳を登るのは無謀です。しかし、この判断ができないのが初心者ゆえのこと。新しいバックパックを試したというのもリスクファクターでした。
登山で求められる体力は登る山により異なり、それを一概に知るすべはありませんが、ブログ等で厳しいと評価されている道は十分に備えて登る必要があると痛感しました。
危機を切り抜けられた要因は?
餓鬼岳の登山道には最終水場というフラットな場所があるのですが、ここで残り時間と天候を勘案して、ビバークの判断をしたことです。
後日振り返ると、その後はひたすら急登が続き、テントを張るのさえも容易ではない道でした。
水場の近くでビバークしようと考えたのも良かったと思います。
3. シュラフ水濡れによる凍傷のリスク
2016年10月は後立山連峰の白馬大池にいました。絶好の登山日和から始まった登山では北アルプス初冠雪を経験しました。
上の写真は同日の写真です。山の天気って恐ろしいですね…。
このテント泊で私は初めてシュラフカバーというものを使いました。使い方がいけなかったか、条件が合致しなかったか、物がわるかったのか。シュラフカバーが結露して就寝中にシュラフがビショビショに。酷寒で震えている中でシュラフが濡れ、まさに窮地に追い込まれた夜でした。
リスクと危機的状況に陥った原因は?
シュラフカバーは何故結露してしまったのか?透湿性のものを使っていたはずですが、テント内の条件がキャパオーバーだったのかもしれません。
あまりの酷寒に私はテント内でストーブをかんかんに焚いていました。
初冠雪がある時期だとは頭で理解していても、震えるほど寒いという状況を想像できていませんでした。
防寒具が足りず、シュラフの暖かさも足りず、結果としてこのような結果となりました。
厳しい寒さの中で体が濡れてしまうと凍傷のリスクが劇的に高まります。
寝ている間に指が凍傷になってしまったという話も聞いたことがあり、もしかしたら私と同様な事が起きていたのではと想像しています。
重度の凍傷は最悪の場合、指や四肢の切断に繋がる恐ろしい状態です。本当に怖い思いをした夜でした。当然眠れず、1時間おきに目が覚めてしまったのを覚えています。
防止策と予備知識:凍傷
10月の北アルプスは雪が降ります。人がぐっと少なくなり、営業を終える山小屋も増えます。
白馬大池山荘も小屋終いの最中でした。
雪山はそれ以外の季節とは全く異なる世界だという認識が重要です。特に、秋から冬への移り変わりは厄介なもの。厳冬期であれば初めから厳冬期の装備で挑みますが、晩秋や初冬は必ずしもそうではないかもしれない。
この時期こそ注意が必要です。装備が不十分で降雪にあったら、死ぬほど、寒い!!!という認識が重要ですね。
テント内部でストーブを焚いたり内外の温度差が大きくなると驚くほど結露します。結露でシュラフやダウンウェアが濡れないよう気を付けましょう。体が直接濡れると凍傷のリスクが高まります。疲労死とあわせて寒い時期には気を付けたい事故の筆頭、それが凍傷です。
凍傷は3段階に分かれ、1段階目は極度の冷たさとしびれ、2段階目で白く蝋(ろう)のような固い状態に、最後は深部凍傷という組織が壊死して黒っぽくなる状態。
治療は全身加温のうえ安静が前提。テントなどで治療が行える場合はぬるま湯(~39℃)に患部を入れ血流の回復を待ちます。重度の凍傷の場合は迷わず救助を要請しましょう。
雪山登山のイロハについては下記の書籍がおすすめです。
4. 道迷いのリスク
屋久島を南北に横断するロングトレイルに挑みました。北は楠川から南は湯泊まで、三岳を通る屋久島きっての縦走路。
湯泊歩道は屋久島の中でも上級者向けの道ですが、私はこれまでの経験から十分歩き切る自信がありました。
しかし、黒見岳より南部は鬱蒼とした自然が繁茂する厳しい道でした。ある時、四方八方が同じ景色に見える場所で進むべき道を見失います。来た道も、進む道も分からない。登山で初めて道に迷った瞬間でした。
道迷いの原因は?
私が迷ったのはどこもかしこも道に見えるような小広場です。上の写真のように大小の木が360度茂っており、明瞭な道がないように思いました。
進めど進めど同じような景色が続きます。
「やはり違う」と思って引き返すのですが、行きと帰りでは同じ場所を通っているはずなのに、見える景色が異なるため来た道がどこだったのか分からなくなってしまいます。
こうなるとパニックで走り出したくなる気持ちに駆られます。とにかく進めばいいのではないかと思ってしまいます。
正しい道ではないのに、正しい道であってほしいという願望が暴走しがちです。
パニックによりますます視野が狭くなってしまうんです。
道迷いのリスクと対処法は?
毎年どこかで神隠しのような遭難事故が発生します。
遭難は必ずしも標高の高い山で起きているわけではありません。むしろ樹林帯の方が方向を見失いやすく、誰の目も届かない場所へ行ってしまうこともあり得ます。道迷いの行きつく先は遭難であり、電波が無ければ助けも呼べません。その先は言うに及ばず、待っているのは悲しい結末です。
山で自分の居場所や進むべき道が分からなくなってしまったらどうしたらいいのでしょうか?
最も大切なことは焦らず、進まずその場で落ち着くことです。
コーヒーを飲んだり、その場で一息ついて休みます。
最もいけないのは闇雲に進んでしまうことです。
さっきまで登山道を歩いていたのなら、正規の道からまだそれほど離れていません。決して闇雲に下ったり、他の尾根に迷い込まないことです。ビバークと死ならビバークを選びましょう。
よほどマイナーな山域でなければ人が近くを通るはずです。自分の存在を知らせましょう。
現代ではスマホやスマートウォッチにGPS機能を搭載したモデルが多く、山の中でも地図と照らし合わせて自分がどこにいるのか表示できます。
この機能は非常に強力です。山のように電波がなくともGPSはキャッチできますので、日本全国どこの山でも現在位置を把握できます。山では紙の地図しか見たくない?いやいや、そんなことを言わずに道迷いや遭難を防ぐためにGPS機能付きのデジタルな地図を持ちましょう。どんな読図の達人でも道迷いはあり得ます。現在地がわかるだけで助かる命は格段に増えるはずです。
もし進むべき道が分からなくなってしまったら進行にこだわらず、エスケープルートの起点や人が居る場所など、来た道の中で最も安全性の高い場所に戻りましょう。
道に迷うと動悸がして生きた心地がしませんよ。
5. 登山における体調不良や外傷のリスク
山で体調を崩してしまうのには様々な理由があると思います。
過労により免疫が低下する、過酷な環境ストレスに体が負けてしまうなど。
山の中で起こり得る体調不良には発熱、嘔吐、腹痛、頭痛など、外傷には出血、捻挫、骨折などがあります。
私はこの中で発熱・腹痛・捻挫を経験しているのでそれぞれの状況や対応策をご紹介します。
発熱
上でご紹介した餓鬼岳の山頂で熱を出しました。
はじめての北アルプステント泊。当然意気込んでいたはずです、楽しみにしていたはずです、しかし、無情にも山頂でかなりの高熱をだしました。また、悪いことに風邪薬や解熱鎮痛薬は持っていませんでした。
その時はシュラフでゆっくりと休むことで、幸い翌日には熱がだいぶ下がり事なきを得ましたが、次は熱は下がらないかもしれません。
優先すべきは安全に下山すること。私は翌日に無理をして唐沢岳まで足を延ばしていますが、こういった無茶が一番いけません。餓鬼岳の下山では濡れた登山路で足を滑らせ、登山靴を川に水没させており、今読むと本当に目も当てられませんね…。
山頂での体調不良はどうしたって起こりえます。リスクをゼロにすることはできませんので、登山では解熱鎮痛薬を携帯するようにしましょう。持病がある方は常備薬の携帯もお忘れなく。例えば片頭痛などがその一例です。
腹痛
厳冬期の仙丈ヶ岳。北沢峠までの長い道を歩き、その後中腹でテントを張りました。問題なく進行した登山。翌日私は誰より早く行動し、日の出前に森林限界を超え、稜線を歩いていました。
この時、人生で経験したことが無いような腹痛に襲われます。
雪山の稜線には夏山のように茂みや樹林帯はありません。森林限界を超えていますからね。(汚い話で大変恐縮ですが)結論から言えば人生初のキジ撃ちを経験しました。人生であれほどに狼狽し、右往左往したことは後にも先にもありません。後続の登山隊がまだ追いついていなかったことがせめてもの救いでした。
氷点下の環境でお腹が冷えたのか、原因は不明です。便秘症の方やお腹が緩い方は登山で不安ですよね。こればかりは日頃から、登山直前は特にお腹の調子を整える以外手がないのですが、下痢止めなどは必ず持参するようにしましょう。
厳冬期の稜線でキジ撃ちは凍傷のリスクがあります。特に厳冬期の稜線で肌を出すというのは凍傷リスク一直線ですので、本当に気を付けたいところです。
捻挫
中央アルプス南駒ヶ岳にいたときのこと。日の入り後、近くの避難小屋に移動する際、稜線から小山で急な道を下るのですが、摺鉢窪避難小屋までの道はあまり歩かれておらず、夏は草木で足元が見えない悪路。それも相当な急登で浮石が多くあります。日没後ということもあり視界が悪く、情けないことに浮石に足を乗せてしまい、捻挫してしまいした。
幸い軽度の捻挫だったので事なきを得ましたが、この登山ではサポーターなど足を固定できる道具を持っておらず、自然治癒に任せるばかり。なんとも情けない話です。
たとえ捻挫してしまっても、自力下山できるようにサポーター、テーピング、湿布、痛み止めを携帯しましょう。細かな話ですが、テーピングはハサミがないと切れないものも多く、小型のハサミも持っておいた方がいいです。何かと役に立ちます。また、テーピングの巻き方が分からないと意味が無いので、事前に確認した上でスマホにスクショなどのメモを残しておくと役立ちます。
6. ハンガーノックによる行動不能のリスク
今年のゴールデンウィークは北アルプス霞沢岳にいましたが、直前のドカ雪と当日の降雪もあり登山路は厳冬期さながらの様相に。
私は昨年登山をあまりしていなかったため、勘も体力も鈍っていました。
K1ピークで穂高を眺めた後下山しましたが、ブログで書いている以上に、実際はヘロヘロになっていました。
考えられる原因と対応策
霞沢岳の登山道は長くて厳しいのですが、そこをひたすら一人ラッセルしていたので、知らず知らずのうちに体力を使い切っていたようです。水が足りていなかったのも良くなかった。軽く脱水症状を起こしていたかもしれません。
鈍った体で登っていいルートでも条件でもありませんでした。
下山途中ではエネルギーが枯渇するハンガーノックに陥っていたと思われます。
本格的な下山前にテントで30分ほど休むことでなんとか回復し、無事に下山できましたが、体は異常な状態でした。
ここまで消耗してしまった理由の一つがラッセルです。
ブランクがの後は簡単なルートで体力と山の勘を戻すことが肝要だと猛省。昔ブイブイに登山していた経験者が空白期間の後に登山を再開し、遭難したり滑落したりする背景には「自分は経験があり、歩き切る自信がある」という過去の実績に基づく妄想が大きいなと、今回自分自身の経験から本当に反省しました。
登山で最も重要なことは体力です。厳しい計画を遂行するには常に体を鍛え、肺活量を維持する必要があると再認識しました。
ハンガーノックとならないために、行動食を惜しまない、水分補給を怠らないという登山の基本も忘れてはいけません。
ゼロにならないリスクを軽減するために
どれだけ用意周到に準備しても登山でのリスクはゼロになりません。
しかし、最悪の事態を免れるための予防策を講じることはできると思っています。
上にご紹介した意外にもヒヤリハットをたくさん経験してきました。例えば、雪の焼岳でシリセードをしていたらアイスバーンに入ってしまい爆死したこと、霞沢岳の下山でズルりと滑落しかけたこと、餓鬼岳で転んで滑落しかけたことなど。
私たちが普段何気なく登っている山という存在は、時に牙を剥く大自然であるということを決して忘れず、上手に付き合いながら美しい自然を満喫出来たらいいなと思っています。
恐ろしい面もある山ですが、本当に美しく、気高い景色を望むことができます。
山にお邪魔しているという謙虚な気持ちで、大きな怪我なく、事故なく、これからも登山を楽しんでいきたいと思います。