春・残雪期(4月~6月)に北アルプスで登山する時の装備と注意点

2021年6月22日 

残雪期の北アルプス登山について装備や注意点をまとめてみます。

緑が芽吹いて新緑眩しく、残雪との対比も美しい春の北アルプス。北アルプスの春と言うと一般には4月以降を指すことが多いでしょうか。実際、3月や4月の北アルプスは一瞬で厳冬の装いに戻ってしまうため、3月の北アルプスを春山と呼ぶには時期尚早な感じが否めません。

3月の北アルプスは厳冬期の装い

そんなこともあり、ここでは4月以降を北アルプスの春と定義しまして、4月から6月のいわゆる残雪期に北アルプスで登山をする際の装備や注意点をご紹介したいと思います。

一口に北アルプスと言ってもその山域は広く、一概にまとめにくい点はありますが、残雪期という観点で言えば北部も南部もあまり違いはありません。北は立山から南は穂高まで参考にしていただけるかと思います。

春山(残雪期)の北アルプスの気象条件や登山難易度

GWの奥穂高岳は圧巻の積雪量

3月中旬ごろから強い冬型の気圧配置が少なくなり、まだまだ雪が降る日は多いものの、春の足音が聞こえてくる北アルプス。とは言え、草木が芽吹くのはまだ先で、例年ゴールデンウィーク(5月上旬)まで、まとまった降雪が観測されます。

GWの涸沢

春山=残雪期=易しいと捉えがちですが、北アルプスではこの方程式が成り立たず、下界や低山ではすっかり春の陽気でも、北アルプスは厳冬期と変わらない積雪や降雪が5月上旬まで続くという認識が必要です。

ゴールデンウィークが終わると雪が降る機会はめっきり少なくなり、変わりに雨の降る日が多くなります。この雨が融雪を促し、5月中旬あたりから一気に雪が溶け始め、5月下旬から6月上旬には稜線や尾根の岩肌から雪が溶け、標高の低い上高地や2000mあたりまでは新緑が芽吹いて春らしい雰囲気となります。

登山難易度について、厳冬期と比較すれば「寒さによる命の危険」は小さくなるものの、それが油断を招くことも。ゴールデンウィークに低体温症による死亡事故も起きていますので決して油断なりません。GWまでは厳冬期に準ずる気持ちと装備が必要です。残雪期ならではの雪崩・落石・降雨といったリスクも高まり、アイゼンやピッケルは残雪期後期まで変わらず必要です。

残雪期=易しいが北アルプスでは通用しない

私はこれまでにもブログで「雪山登山を始めるなら厳冬期から」とおすすめしていますが、残雪期の「クセ」のある雪山登山は想像以上に手強いものです。例えば午後になると日射で雪が緩んで歩きにくくなったり、下界と高山帯の気温差が大きいため持っていく装備の想像が付きにくい点などが挙げられます。

大事なのは春(残雪期)= 簡単だと思わないこと。そんな私自身、残雪期登山でヒヤリハットな事例があったので、改めて気を引き締めていきます。

4月・5月・6月それぞれの季節変化と必要な装備

上述の通り、春山・残雪期といっても1ヶ月ごと、いやそれどころか、毎日・毎週ごと山の様相は変わっていきます。春山や残雪期と一括りにするのではなく、タイムリーな積雪情報を集めることは前提条件として非常に重要です。

そんな前置きをしつつ、4月・5月・6月の各月ごとに分解してそれぞれの季節変化や必要な装備についてまとめたいと思います。

4月

4月中旬の槍沢

4月の北アルプスは完全に雪山の装い。まだ岩が露出しているような場所は少なく、ある意味1年で最も積雪が多いかもしれない時期。冬型の気圧配置になることも多く、一晩で50cm以上積雪することもあります。降雪後の沢筋は最大限の注意が必要で、基本的に歩くべきではありません。

4月の北アルプス=完全な雪山という認識が重要。

最低気温がマイナスまで下がることもあり、テント泊登山をする場合には厳冬期に準ずる装備が必要。シュラフやダウンウェアのグレードを少し下げることも検討の余地に入りますが、私は(夏用と冬用しか分けていないので)厳冬期用の装備をそのまま流用しています。

4月はラッセルすることもしばしば

アイゼン・ピッケル・アバランチビーコンは必須。降雪直後はスノーシューやワカンも必要です。

4月になると昇温による融雪が進み、特に日が昇ってから(9時ごろから)は雪が緩んできます。緩んだ雪は砂の上を歩くかの如く、足が取られて思うように進めません。長距離を移動する必要がある場合、できるだけ早い時間に行動するのが吉。

緩んだ残雪と日中の高温は体力をどんどん奪っていきます。

難しい面もある4月ですが、槍ヶ岳山荘や涸沢ヒュッテなどが4月中旬から営業を始めますし、室堂へのアクセスも解禁されます。これにより登山のバリエーションが一気に増えるのは嬉しい限りです。

5月

5月上旬の涸沢

ゴールデンウィークの涸沢や雷鳥沢には多くの人が入山します。メジャーな登山道にはトレースが期待できる時期ですね。

5月に入ると雨が降る日も多くなり、5月中旬以降は雨が主体になります。沢筋では大規模な雪崩に厳重な注意が必要。降雪がなくなっても残雪は変わらず豊富なので、アイゼンやピッケルは引き続き必要です(常念山脈のように積雪が少ない山域は下旬から不要な可能性も)。

気温も上昇して3000mの稜線でも最低気温が0度以上となり、行動中はインナーウェアとTシャツで十分なほど暖かくなります。

残雪期だからこそ歩ける沢筋や雪渓ルートを楽しめる時期なので、夏や厳冬期では難しいルートを攻めるのも一考です。

6月

4月や5月と比べて一気に春らしくなる6月。上の写真はゴールデンウィークの本谷橋と6月上旬の本谷橋を比べたもの。1ヶ月でこれほど融雪が進み緑が芽吹く。日々の変化が非常に大きい。

場所によっては残雪豊富なものの、尾根や稜線では夏道が出ている箇所が多くなります。

稜線では雪が溶けているが沢筋は雪が豊富に残る

涸沢など残雪が豊富な場所では、下界とのギャップが大きくなりますね。常念山脈などの例外を除き、6月の北アルプス登山ではアイゼンやピッケルが引き続き必要です。

例年、6月中旬頃から梅雨入り。梅雨前線の影響で雨や曇りのグズついた天気が多くなり、晴天を掴むのが難しくなります。3000mの稜線でも日中の気温が10℃以上と高くなることもあり、ウェアについては概ね夏山に近い装備で登山可能となります。

槍沢や涸沢など沢筋の雪渓が割れて川が露出する箇所も多くなります。万が一にも滑落しないよう注意が必要です。

6月中旬から下旬には、残雪期ならではの雪上ルートの雪渓が割れて通行が難しくなることも。この辺りは山小屋やリアルタイムの情報を集めながら適宜判断する必要があります。

北アルプスの厳冬期と残雪期の違いとは?

北アルプス厳冬期残雪期
12本爪アイゼン必須(基本)必須
ピッケル必須(基本)必須
雪崩リスク常に大きい降雪後に大きい
落石リスク小さい大きい
山小屋営業なし一部営業開始
入山者数極めて少ないGWから多い
降雪量常に多い短期ドカ雪型
積雪量多い多い
最低気温-25℃ ~ -5℃-5℃ ~ 5℃
1日の気温差小さい(一日中酷寒)非常に大きい(昼は暑い)
日照時間短い長い
登山ルート(基本)尾根尾根+沢筋

ざっくりではありますが、北アルプスの厳冬期と残雪期の違いを表にまとめてみました。当然例外はありますのでご容赦を。

厳冬期と残雪期の一番の違いは気温や1日の温度差でしょう。厳冬期の北アルプスは朝から晩まで酷寒で死ぬほど寒いのですが、残雪期になると日中は暖かいが朝晩は寒く、気温差が大きくなります。

寒ければ必要な装備やウェア類が多くなるということ。荷物が多くなる=登山難易度が高くなるに直結しますので、厳冬期の登山は寒いというだけで大変なものです。

また、残雪期になると一気に日がのびて行動できる時間が長くなります。登山工程を考える上では重要な違いになってきますね。

巨大なデブリが残る槍沢

降雪量やタイミングの違いから雪崩への注意も変わってきます。

厳冬期の沢筋は常にリスクを伴いますが、残雪期では雪が安定すれば沢筋のルートを取ることも普通となります(涸沢・槍沢・奥明神沢など)。とは言え、降雪後・降雨後・気温の高い午後は依然雪崩のリスクがありますので、怖いことに変わりはないのですが。

残雪期のテント泊

山小屋が営業していれば幕営指定地に幕を張る

厳冬期のテント泊はあらゆる面でシビアかつ大変ですが、4月中旬以降は気温が高くなるので「寒くて辛い」というストレスからかなりの部分解放されます。

また、入山する人も多くなり、雪も安定してきますので厳冬期ほどシビアではなくなります。営業を開始する山小屋もあり、それらを利用すれば利便性は大幅に上がりますね。

上高地、室堂、扇沢へのアクセスが解放され、アクセスが格段によくなり、ある意味では山全体が幕営適地になりますので、夏山以上にテント泊愛好家にとっては嬉しいシーズンの始まりです。

北ア残雪期登山のQ&A

他にも気になりそうなことをQ&A形式でまとめてみましたので、補足的に使っていただければ幸いです。

Q:ゴールデンウィークの北アルプスはどれくらい寒い?

-5℃〜10℃に対応できる必要あり

寒気が入ると-5℃から- 7℃くらいまで下がることもあるゴールデンウィーク。世間はぬくぬくでも山の上はまだまだ冬。

寒気が来ていなければ最低気温は0℃程度、日中は5℃くらいまで上がることも。その場合、ウェア類としては(北アルプス的)晩秋装備+αくらいあれば十分。モンベル的シュラフで言いますと#1があれば安眠できます。#2だと場合によっては寒いかもって感じです。

公共交通機関で移動する場合、街は暑くなるので辛いところです。私は寒いのが嫌なのでインナーはモンベルのジオラインEXPで行きましたが、寒気が来ていなければMW(中厚手)でも大丈夫かと思います。

Q:残雪期でもピッケルやアイゼンが本当に必要?

残雪期から雪山登山を始めるのは危険

絶対に必要です。多くの場合、ピッケルやアイゼンがないと太刀打ちできません。

北アルプスで夏靴や夏山装備に切り替えられるのは7月上旬以降です。ただし、燕岳など常念山脈の易しい山はもっと早くアイゼンもピッケルも不要になります。ただ、例外的ですので、その辺りはケースバイケースで調べる必要があります。

Q:おすすめの山域は?

残雪期の裏銀座は魅力的(豊富な経験が必要)

厳冬期の入山が難しい山域なんていいですね。

例えば、穂高岳、双六岳、笠ヶ岳、黒部五郎岳、薬師岳など。厳冬期に登るのは骨が折れる場所でも、残雪期なら雪景色を望めるようになります(もちろん初心者向けではありません)。

Q:おすすめの時期は?

残雪期後期ならではの難しさも

ゴールデンウィーク前の4月中旬はすごくおすすめ。入山している人が少ないので静かな雪山を楽しめます。雪山を始めたばかりという場合は5月中旬以降になると雪も落ち着き、山小屋も営業していて登りやすくなります。

6月に入ると雨や曇天の日が増えます。雪渓も割れて滑落の危険も増えますし、やはり4月・5月がおすすめでしょうか。

Q:雪山初心者が残雪期の北アルプスに行くとしたらどこがいい?

上高地は5月が最も美しい

5月の上高地の新緑がとにかく美しいので、ここを愛でつつ蝶ヶ岳、涸沢、槍ヶ岳がおすすめ。槍沢はルートが長いので槍沢ロッヂで無理せず1泊すると快適でしょう。涸沢からの奥穂高は人気ルートですが、決して初心者向けのルートではありませんので絶対にやめましょう(怖い思いしますよ)。

燕岳は雪解けが早く、燕山荘も営業していて安心して登れる一座です。少しステップアップしますが、唐松岳、五竜岳、爺ヶ岳、立山、焼岳、常念岳もいいですね。

もう一声、という場合は白馬岳の大雪渓も候補になりますが、雪崩のリスクがあるので天気予報から時期を判断できる経験が必要です。

残雪期ならではの難しさは?

霧雨が降る槍沢

雨が降ることに注意が必要。いっそ雪なら楽ですが、雪山の中で冷たい雨に打たれると体が冷えます。レインウェアを携帯するのは当たり前ですが、とにかく体を濡らさないよう注意が必要。

雪渓の上を落石が音もなく駆け落ちてくることもあります。雪崩はもちろんのこと、落石がないか常に上部を気にかけながら歩く必要があります。他にも残雪期後期には雪渓が割れてきますので、雪の薄い場所は歩かないとか、雪渓が割れかけていたら近寄らずなるべく夏道を歩きましょう。

残雪期の登山では雪渓を登る道も多いですよね。日が昇ると雪が腐って歩きにくいと書きましたが、厳冬期のようにアイゼンがしっかりと効きない場合もあります。特に雪渓の下りで滑落しないよう注意が必要です。

そういった意味でも、まずは厳冬期のしっかりした雪面でアイゼン歩行を練習した方が良いと思います。厳冬期の北アルプスへ・・・と言っているのではなく、まずは北八ヶ岳などで経験を積みましょう。

Q:残雪期装備の具体例は?

  • ニット帽(残雪後期はハットでも)
  • ソフトシェル(日中の行動着に)
  • レインウェア
  • 厚手〜中厚手のインナー(時期により調整)
  • Tシャツ
  • 薄手〜中厚手のパンツ
  • 中厚手のソックス
  • 冬靴ブーツ
  • 防水グローブ
  • ピッケル
  • アイゼン
  • ストック(残雪期は推奨)
  • ワカン(基本は不要)
  • スノーシュー(基本は不要)

4月と6月では気温も変わってきますので一概には言えませんが、4月は厳冬期よりの格好、6月は夏山よりの格好がいいでしょうね。燕岳などでは早くから夏靴に切り替えも可能ですが、ほとんどの場所で冬靴+アイゼンが必要です。

夏靴に変えてから「一箇所だけ雪渓があってチェーンスパイクでは不安」なんて場合には、夏靴でも使えるタイプのアイゼンが便利ですよ。


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