厳冬期(1月~3月)に北アルプスで登山する時の装備と注意点

厳冬期における北アルプス登山の注意点や服装、装備などの情報をまとめました。厳冬期に関してはほぼ同じことが南アルプス、中央アルプス、八ヶ岳にも当てはまりますが、中でも厳冬期の北アルプスは雪や荒天の日が多く、シビアな気象条件な日が多いという特徴があります。

また、厳冬期の北アルプスに関しては、南部と北部、飛騨側と信州側で難易度に差があるのも特徴です。3シーズンには多くの人が入山する裏銀座方面の山々(双六岳・鷲羽岳・三俣蓮華岳・黒部五郎岳など)は積雪が極めて多く、歩くことは極めて困難。

他にも立山、剱岳、薬師岳、笠ヶ岳などは不可能〜極めて困難な山域となりますので、その辺りの知識・感覚は必ず身につけましょう。

目次

北アルプスの厳冬期はいつからいつまで?

厳冬期の北アルプスというと基本的には12月中旬あたりから3月上旬を指すことが多く、人によっては「厳冬期といえば1月2月だ」と仰る人もいるでしょうし、ある人は「北アルプスでは4月でも吹雪くことがあるから残雪期と呼ぶにはまだ早い」と考える人もいます。

気温が低いという物差しで測れば、12月中旬から2月下旬を厳冬期と捉えるのがしっくりきますが、積雪量の観点から言えば12月下旬から3月下旬までを厳冬期と考えてもおかしくはありません。

本題からは少し外れますが、残雪期の北アルプスは春らしい陽気から豹変してゴールデンウィークでも吹雪となることがあります。その意味でも、北アルプスの冬は相当長いと認識しておくことが重要です。

北アルプスの厳冬期登山の心構え

大事なのは、12月(あるいは11月中旬以降)に入ってからの北アルプスは「別世界」だという認識を持つこと。

– (西穂山荘以外の)山小屋は営業していませんので有事の際のリスクが極めて高くなります。
– 年末年始や人気のルートを除いて登山者の数は極端に少なくなります。
– 夏山では簡単に歩けていた登山路が、雪崩の危険性から歩くべきではない場所に豹変することも(涸沢や槍沢など)。
– テント泊登山の場合、あり得ない程の荷物を持ち運ぶ必要があります。それは燃料であり、食料であり、冬山登山装備などです。
– 本来、人が立ち入ってはいけない自然環境、つまり異世界へ飛び込むという気合と用心が必要。マジで寒いです。

北アルプスに限った話ではありませんが、日本アルプスのような高山帯を厳冬の期間に歩く場合、夏山登山とは完全に別物です。初冬や残雪期とも違った難しさがあることをしっかりと認識した上で、挑戦する必要があります。

とにかく寒く。

とにかく雪が深く。

そして、人がいません。

私も厳冬期の経験が十分に豊富とは言えませんので、今後も気を引き締めて挑戦していきたいと思っています。

厳冬期に必要な登山装備

山小屋などのバックアップなしに自己努力のみで最初から最後まで自分の面倒を見る必要がある。それが厳冬期登山であり、そのために必要な装備は多岐に渡ります。厳冬期に特有・固有な装備はありませんが、厳冬期以外の季節とは異なり『持っていかなくてもなんとかなる』という思考は非常に危険です。

登山全般に必要なものは割愛しますが、特に重要なものについてまとめてみました。

基本装備
ピッケル 急傾斜の登降などでは命を預ける道具となる。
クランポン 雪山登山において最重要装備だと言っても過言ではない。普段より左足と右足の間隔を横に広く取り、アイゼン同士を引っかけないように細心の注意が必要。特に細い稜線の登降や疲労時。
ワカン(スノシュー) 厳冬期ではほぼ全ての登山で必要となる。トレースが間違いなくあると確信を持てなければ携帯推奨。トレースの有無は出発前の調査が重要。みんな駆け引きしていると思われる。
バラクラバ 厳冬期では絶対に必要。ないとヤバい。稜線で風が強いと感じたら冷える前に付けよう。
ゴーグル 厳冬期では絶対に必要。飛び雪が目に入って滑落などしないよう、風が強ければ直ぐ身に付ける習慣を。
テント泊登山
テント 売られているテントの多くは3シーズン(春夏秋)用なので、厳冬期に対応しているテントなのか購入前にしっかり確認を。
ペグ 雪山登山用のペグは種類が少ない。ただし、ピッケル、アイゼン、ストックなどをペグの代わりに代用できるので、それほど心配しなくてよい場合も。
スノーショベル 厳冬期では必須装備。雪のブロックを積まないと風で大変なことに。倒壊しないまでも、うるさくて寝れないかも。
スリーピングマット テント泊の最重要装備だと断言します。ここが弱いと暖かいシュラフを使っても寒くて寝れません。厳冬期の底冷えはハンパじゃない。最善を尽くしても寒いです。
シュラフ シュラフも重要。厳冬期対応(-10℃)を使う。重いしでかいし嵩張ります。
燃料(ガス缶) しっかり充填して、かつ事前に動作確認を行うこと。十分量を持っていきたい。必ず厳冬期に対応しているガス缶を使うこと。食事以外にも暖をとるのに役立つ。着火用に使い捨てライターを必ず持参しよう。
食料 持っていく量は経験によるが、昼食はパンや羊羹などでサッと済ませる。
ウェアリング
インナー 上下ともに間違いなく厚手のものを。厳冬期は下界も寒いので自宅から着て行っても問題なし。残雪期は下界と山のギャップが非常に大きく、街では半袖OKなのに稜線は激寒なんてことも。
パンツ 私はソフトシェルタイプを使っています。厳冬期はパンツが濡れることはあまりないのでハードシェルが必要だと感じたことはない。一応レインウェアを携帯してます。
ミドルレイヤー フリースを使っていますが、最近は極薄ダウン・極薄化繊などもよく使われているようです。
アウター 雪山登山用のものは高いし厚いゴワゴワしているとの理由で今は使っていません。レインウェアで代用していますが、まだ私自身迷っているところなので今後も研究していきたい。
インナーグローブ 常時身につける。
ミドルグローブ 樹林帯を除きほぼ常時身につける。
オーバーグローブ 稜線など風に当たる場所では常時身につける。
ニット帽 厳冬期の耳の痛さはガチです。
ソックス 厚手のものを用意しよう。厳冬期の手足の冷えは想像以上。
雪山登山靴 ケチらず雪山登山を始めるなら買おう。値段に驚くかも。

流行りのUL(Ultra Light)とは対極に位置する厳冬期の登山装備。

「無くてもなんとかなる」が一切通用しない厳冬の雪山では己と持参した装備が全て。

かといって重くなり過ぎれば今度は重量がリスクになる。バランスが難しいだけに、必要/不要を自分なりに判断しなければなりません。厳冬期の登山は本当にシビアです。

1泊のテント泊なら16kg~18kg程度、2泊以上なら18~20kg程度、山岳写真+テント泊で本当に全て持って歩くと22kg程度になります。参考まで。

入山する山の選定

厳冬期の北アルプスは入山する山の選び方が非常に重要です。3シーズンとは違ってどこもかしこも歩けるというわけではありません。正確に言えば、歩けるかもしれないが、中途半端な覚悟では歩けない場所がほとんどです。

かつ、アプローチが長いので時間がかかる場所が多く、メジャーな山頂を目指すとなるとテント泊が必須となることがほとんど。厳冬の北アで日帰りができるのは乗鞍岳、西穂高岳、焼岳、唐松岳(トレース等の条件次第)くらいではないでしょうか。なお、いずれも日帰りするには天気が良く、トレースがあり、帰宅がかなり遅くなるという条件付きです。

他に登山記録を見ることが多いのは常念岳(東尾根)、蝶ヶ岳(長塀尾根)、霞沢岳(西尾根)、乗鞍岳、奥穂高岳(涸沢岳西尾根)、槍ヶ岳(中崎尾根)、鹿島槍ヶ岳(赤岩尾根)、燕岳(年末年始)・・・などでしょうか。一様に記載していますが、難易度は気象条件やトレースの有無などで劇的に変わるため注意が必要です。

例えば2022年の厳冬期は降雪が多かったからか、蝶ヶ岳はあまり登られていないようです(ラッセルが厳しいため)。一方で比較的歩きやすい常念岳が人気の印象でした。また、奥穂高岳など飛騨側は厳しい積雪量の関係か、1月〜2月上旬あたりまでほぼ登られていないようです。

厳冬期は一人で歩くか二人以上のパーティーで歩くかが登頂確率に大きく影響します。私のように常に独りで歩く単独行の場合、トレースがないだけで「試合終了」という場合もあり得ます。二人以上であればラッセルを交代できますが、一人では厳しい場合もあります。

厳冬期北ア登山のQ&A

Q:厳冬期は初冬や残雪期と何が違う?

12月の北アルプスはとにかく天気が悪く、一気に降雪量が増えます。連日晴れる日は稀なので登山工程を組むのが非常に悩ましく難しいものです。かつ、天気と仕事の兼ね合いなどを付けようと思うといつの間にか年の瀬になっていることも・・・。

残雪期は入山者が急増しますが、初冬から厳冬期はとにかく人が少なく、遭難しても簡単には見つけてもらえないリスクが高まります。

厳冬期一番の特徴はなんと言ってもその低い気温。北アの厳冬期は暖かくてもマイナス5℃程度、寒いとマイナス15℃、強い寒気が入るとマイナス20℃以下になることもあるため、初冬や残雪期とは一線を画す難しさがあります。

ちなみに冷蔵庫の温度が約0℃、冷凍庫がマイナス18℃程度なので、厳冬期の北アルプスは寒気が強いと「冷凍庫の中を常に行動する」ようなもの。本当に寒い。

12月に入ると気温が急速に下がり、雪が増えて一気に厳冬期という雰囲気に。2月末から厳冬期の雰囲気が和らいでいき、3月に入るとかなり暖かい日が出てきて稜線で雨になることも。4月に入るとすっかり春という雰囲気に変わります。

Q:厳冬期で狙い目の時期は?

12月は天気が悪い日が多く、1月も引き続き雪の日が多い。加えて、1月は本当に寒いです。

一方で年末年始は登山者が多く入るので、燕山荘が営業している燕岳や西穂高岳はかなり賑わうようです。他にも年末年始の蝶ヶ岳もトレースがかなりの確率で期待できますし、稜線に冬季小屋があるので人気です。

時期としては、2月中旬になると寒気が和らぐ日が出てきます。2月中旬から2月末、この辺りは厳冬期登山の狙い目でしょうか。12月下旬から1月末までは「修行」です。高気圧が来るタイミングを見計らって晴天をどのタイミングで掴むか、しっかりと天気予報と睨めっこするしかありません。

Q:厳冬期のテント泊登山のポイントは?

厳冬期だからといってテント泊の要点がガラリと変わるわけではありませんが、やはり厳冬期の寒さはテント泊をする上でハードルになります。加えて、厳冬期では連日晴れるということが稀なので、2泊以上の登山では多くの場合で降雪や強風に叩かれながらの幕営が必要です。

一年のうちで最も厳しい時期であるということを認識した上で、まずは3シーズンでテント泊の経験を積むことが重要なのはもちろん、できれば西穂山荘のように安全を確保できる場所でテント泊してみるなどのステップアップも役立ちます。

厳冬期はスノーシャベルを持っていく必要があり、他にも荷物が多いことから総じて荷物量が増えます。重たい荷物を担いで歩ける体力も重要ですね。

一点気をつけたいのは、厳冬期用のガスを用意すること。超低音環境だと3シーズン用のガスはほぼ役に立ちません。

水作りなどテント内生活の基本はいきなり厳冬期で培うのではなく、初冬や残雪期にしっかりと自分なりの手順を確立することを強くおすすめします。不安な方は山小屋が営業している八ヶ岳などで経験を積んでから北アルプスに挑戦するといいのではないでしょうか。その意味では西穂山荘はやはりありがたい存在ですね。

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