雪化粧した美しい山の姿に惹かれ、雪山登山を始めてみたいという方は多いと思いますが、リスクの大きい雪山登山を一人独学で始めていよいものか悩むことも。
雪山登山の始め方に関する書籍やブログ記事はたくさんあれど、初心者が一人で雪山を始めるという観点で書かれたものは意外となかったりします。
「雪山登山を始めたいけど、相談できる経験者も、それどころか登山友達もあまりいない」という方に向けて、雪山登山を独学で始める場合に知っておきたい事前知識を7つの項目でまとめてみました。
【その1】 夏山登山の経験が十分か自問自答する。
雪山登山を始めるには、夏山登山での十分な経験が必要不可欠。
定量化することは難しいのですが、中〜高負荷の夏山登山の経験が最低でも10回以上は必要だと思います。
夏山の雨風から山岳気象を学び、テント泊や山小屋泊を通じて山の夜や朝の時間を経験し、いろいろな登山道を歩いてみることがとても大切です。夏山よりもずっと厳しい雪山で、万が一の事態や苦しい状況を脱するには山で培ったタフな精神力が役立ちます。
雪山登山を楽しむには、山で過ごす時間に慣れているということがとても大切です。
【その2】 事前に雪山登山(冬山登山)の教本を熟読する。
何事も新しいことを始めるには事前の勉強がモノを言います。雪山登山でも同様です。
雪山登山のリスク、夏山と雪山の違い、雪山登山に固有の登山道具の種類とその使い方、冬季の山岳気象など。
事前学習なしに何とかなるだろうと甘く見るのは雪山登山では厳禁。雪山登山の講習会に参加するというのはこの点で理にかなっていますね。
とは、言え開催場所やその他諸々の理由で行けない人も多いかと思います。そんな時こそ教本の出番。
具体的な例を挙げるとキリがないですが・・・
- 雪山ブーツの種類と選び方
- アイゼンの選び方
- アイゼン歩行の基本(キックステップとフラットフィッティング)
- ピッケルの選び方と基本的な使い方
- 滑落防止の基本知識
- 雪崩が起きやすい地形や注意事項
- 雪庇など雪山登山独特の現象
- 低体温症
- 三種の神器
- 雪上テント泊におけるノウハウ(水の作り方やブーツを抱いて寝ること等)
学んだことを雪山で実践するわけですが、ステップを踏んで着実にレベルアップすることが重要なのは言うまでもありませんね。
【その3】 雪山登山に必要な道具を買い揃える。
気軽に雪山の事を相談できる人なんていない・・・。
そんな時はやはり、雪山道具のこともまず書籍で学びましょう。各種ブログもいいですが、書籍の方が網羅的かつ体系的に情報収集できると思います。
雪山登山の道具の全体像を把握したあとは、好日山荘やモンベルなどの冬季登山道具を扱っている専門店に向かいます。店舗で道具を揃えるのですが、買う前に必ず(雪山登山の経験がある)店員に、素直に「雪山登山がはじめてで一式そろえたいこと」を相談することをおすすめします。
店頭で確認すべきは・・・
- 冬山ブーツの履き心地
- アイゼンの種類
- ブーツとアイゼンの相性
- ピッケルの長さ
事前に自分で欲しい物を調べたり考えた上で相談すると、理解が深まり買い物がスムーズに運びますよ。
また、必ず雪山登山の経験があるスタッフに相談しましょう。アイゼンコーナーや雪山ブーツ辺りにいるスタッフでしょうか。おそらくアルバイトスタッフで雪山経験が無い人なら適切なスタッフを呼んでくれるはずです。
冬季登山道具を買う上で一つ知っておきたいのは、雪山登山に必要な道具は夏山登山と別物であること。
夏山の常識が通用しない事も多いので、気分一新、初心者としてゼロから教わる気持ちが大切です。
【3-2】冬山装備購入前のチェックリスト
実際に雪山装備を揃える上で気を付けたいポイントをまとめました。
リマインダーとしてご活用ください。
- ブーツの試着では冬季用靴下を履いているか。
- ブーツは完全防水の雪山登山靴か。
- ブーツに前コバがあるか。
- アイゼンはワンタッチ式12本爪か。
- ブーツとアイゼンの相性は問題ないか。
- アイゼンケースを買ったか。
- ピッケルは登攀用ではなく縦走用か。
- ピッケルは身長に対して適切な長さか。
- ピッケルホルダーを買ったか。
- ワカンの大きさは適切か。
- インナーグローブとオーバーグローブどちらも買ったか。
- グローブは厳冬期用か。
- ゴーグル、バラクラバを買ったか。
- ゲイターは冬季用の分厚い物か。
・・・細かく書き出すときりがないですが、これらは書籍でも必ず書かれているはずです。
漏れが無いように良くチェックしておきましょう。
独学で雪山を始めるには、とにかくそういったチェックが重要。ソロの場合、雪山で頼れるのは自分一人ですから。
【その4】 雪山デビューはぜひ厳冬期の晴れた日に。
事前知識を身につけ、雪山登山の道具を買い揃えました。いよいよ登山計画を立てる段階ですが、まず気をつけたいのが雪山初心者の時には秋と冬の切り替わりの時期には登らないことです。
秋から冬へ山が衣替えをするのは11月上旬〜11月下旬(低山は12月)です。
これから雪山デビューする場合は、2月後半の厳冬期後半をおすすめしたいと思います。
独学で雪山デビューするために最も大切なのがアイゼン歩行をマスターすることですが、初冬は岩と雪のミックスとなることが多く歩きにくい。一方で厳冬期は完全な雪道となり、アイゼンで歩きやすくなります。
特に10月下旬〜11月中旬などは積雪状態が不安定なので避けた方がいいかも。
残雪期もお勧めです。残雪期は人が多くて安心感がありますし、気温もグッと上がって行動が楽になり、低体温症のリスクがかなり下がります。日照時間が長くなり、行動計画を立てやすくなるメリットもあります。一方で、残雪期は雪崩のリスクが大きくなりますので、事前の情報収集は欠かさないこと。
【その5】 雪山登山デビューにはド定番の山を選ぶ。
雪山登山のデビューには定番とされている山を選びましょう。理由は人が比較的多いこと、アプローチが容易で遭難のリスクが低いことです。
山の選定で気を付けたいのが「初心者におすすめの雪山〇〇選」のようなブログ記事。
初心者という言葉の定義は人により異なりますし、記事の信憑性も本当にまちまちです。参考にする際には細心の注意が必要ですね。
一例として、中央アルプスの木曽駒ケ岳は雪山初心者におすすめとしてよく推しだされていますが、雪山初心者に必ずしもおすすめできるわけではなく、雪山デビューにはもってのほかです。
どこがいいかと考えると、私の経験としては北横岳がダントツNo.1。
他の山ブロガーさんの記事を読んでいいと思ったのは南アルプスの入笠山。
北横岳や入笠山は・・・
- 公共交通機関でのアプローチが良好。
- ロープウェイで中腹からスタートできる。
- 積雪量が豊富。
- 本格的な雪山の雰囲気を味わえる。
- 人が比較的多い。
- 雪崩の危険がない。
- 滑落の危険が小さい。
- 遭難のリスクが小さい。
- 営業している小屋がある
といった条件を満たしており、低体温症や雪崩といった雪山のリスクがほとんどありません。
冬の北横岳は圧倒的におすすめであるものの、道迷いや遭難による凍死という痛ましい事故も過去に起きています。
大切なのは北横岳の中でもマイナールートには行かず、北横岳山頂のピストンだけにとどめるなど、無難なルートを選ぶことです。
雪山登山の一発目ではとにかく安全に、まずはアイゼンやピッケルの感触を確かめるにとどめましょう。それでも、美しい雪景色に心打たれること間違いなしですよ。
【その6】 アイゼン歩行中は滑落しないことに全神経を注ぐ。
雪山登山で気をつけることはたくさんありますが、特に気をつけたいのが滑落です。
先ほどの北横岳の事故も滑落が原因ですね。
滑落の主な原因なアイゼン歩行中にアイゼンとズボンを、あるいはアイゼン同士を引っ掛けてしまうこと。
アイゼンには鋭い歯が付いていますが、右足と左足のアイゼン同士が噛んでしまうことがあります。または、アイゼンの歯を反対の足のズボンに引っ掛けてしまうと転びます。
雪山登山を始めたばかりの初心者の時期に、一回もアイゼン歩行のミスをしないということは稀なんじゃないでしょうか。むしろ安全な場所でわざと転倒のリスクを経験しておいてもいいくらいです。
急斜面で滑落が始まってしまうと止めるのは困難。繰り返すようですが、とにかくアイゼン歩行に気をつけて、転ばないことが最優先。
大切なのは普段より1.5倍両足の間隔を左右に広げて歩く癖をつけることです。
足場が狭いときに焦らないこと。両足が密着する状況でアイゼン同士が絡みやすいからです。
【その7】 雪山登山の計画を家族や友達に知らせる。
登山届の重要性は今更強調するまでもありませんが、冬山では特に重要です。雪山登山の場合は念入りに計画を書くことをおすすめします。
さらに、冬山の場合は登山の計画をご家族やご友人に必ず知らせましょう。登山計画の内容をLINEやメールで送るもよし、登山届けのコピーを手渡しておくもよし。
万が一の事態の際は、家族や友人が警察へ「異変」を連絡してくれることが命綱となります。ご家族やご友人に心配されてしまうかもしれませんし、雪山登山なんてしないで欲しいと頼まれることがあるかもしれません。
私の場合は「◯月◯日(下山予定日の次の日など)までに下山完了の連絡がなければ、◯◯◯まで連絡してほしい。登山届け番号:〇〇〇」と伝えています。
独学で始める雪山登山Q&A
独学で雪山登山を始めるにあたり、疑問に思いそうなことをいくつかQ&A形式でまとめてみました。
参考にしてみてください。
Q : アイゼンは必ず12本爪じゃないとダメ?
回答:バックルで留めるタイプの簡易アイゼンでも、10本爪のアイゼンでも登れます。ワンタッチ式12本爪でなければ必ずしもダメということはありません。目指す山域により異なります。
実際私は1年目にこのタイプのアイゼンを使っていましたが、問題なく登れていました。ただ、八ヶ岳の赤岳のように急峻な雪山に挑戦したいと思っている場合は、前爪のある12本爪、とくに固定強度の強いワンタッチ式アイゼンが必要になるので、無駄な費用を省くためにも初めからワンタッチ式12本爪を購入することをおすすめします。
Q : 三種の神器がないと雪山登山はできない?
回答:必ずしも必要なわけではありません。
道具も適材適所が肝心で、例えば北横岳の登山にビーコンやプローブ(ゾンデ)が必要かと言えば、そうではないでしょう。一方で、立山に行くのであればビーコンは必須です(レンタルもありますが、いずれにせよ携帯することは必須)。
雪山初心者の方がよく訪れる山、例えば北横岳、黒斑山、入笠山、蓼科山などは雪崩に遭う可能性が低いため、ビーコンの携帯は必須だとは思いません。また、同様の理由でプローブも不要でしょう。テント泊をしないのであればスノーショベルも重いだけです。三種の神器は重要ですが、入山する山・ルートで雪崩のリスクがどの程度あるのかよく調べることが重要です。
Q : 雪山の天気がイマイチ分からない…
回答:北海道や屋久島など特殊な地域を除くという前提ですが、冬型かそうでないかで大まかな判断が可能です。
西高東低で等圧線が縦に密に並ぶとき(本州に:3本以上等圧線がかかるとき):日本海側の山岳、北アルプス、谷川連峰などでは雪~豪雪となり、中央アルプスや南アルプス、あるいは太平洋側の山岳では概ね晴れます。西高東低で等高線が縦に緩く並ぶとき(本州に1~2本等圧線がかかるとき):日本海側の山岳、谷川連峰では雪、北アルプス南部は概ね、中央アルプスから太平側の山岳で広く晴れます。移動性高気圧に覆われる時:日本海側から太平洋側の山岳で広く晴れます。注意しなければならないのは日本海低気圧、太平洋低気圧、あるいは二つ玉低気圧が来ている時。豪雪の大荒れの天気となるので雪山登山は厳に慎むべきです。
慣れてくると概ね天気を予想できるようになりますが、雪山登山では特にヤマテンの利用を強くお勧めします。
Q : アイゼンを使って歩いても滑ってしまう…
回答:アイゼンの歯を雪面と平行に置くことをフラットフィッティングと言いますが、この感覚を掴むことが大切です。アイゼンの刃が雪面に多く接すれば接するほど滑り抵抗が大きくなるので、滑りにくく安心して歩くことができます。逆に急な登りではキックステップと言うアイゼンを雪面に蹴りこむ歩き方も必要です。
それほど難しい事ではないので、書籍の説明図などをよく頭に入れたうえで、雪山で実践しましょう。蓼科山はテストするのにちょうどいい角度だと思います。
Q : 厳冬期用ブーツやグローブを使っても末端が冷える…
回答:厳冬期用の装備をしていても、寒い時は寒いです。歩いている時は代謝が上がり、血流もいいので寒さを感じませんが、休憩のために立ち止まると急に寒くなったりします。
大切なのは厳冬期用の装備をすれば「寒さを完全に防げる」なんてことはないということ。立ち止まったり、風が強い場面では特に冷えます。長時間立ち止まったり風にさらされることが無いよう気を付けましょう。こまめに補食してカロリーを維持したり、グローブをレイヤリングするなど対策をお忘れなく。
Q : 迷わないか心配…
回答:トレースがあれば基本は従いますが、意図するルートではない可能性や間違ったトレースの可能性もあるので、地形と地図やGPSを見比べることが大切です。
歩くべき場所は夏山と同じ登山道の上であることがほとんどです(雪で隠れて見えませんが)。地形やGPSから判断して夏道から大きく外れないように意識しましょう。夏道の上は雪がしっかり固まっていることが多く歩くのに適していますが、登山道がない藪の上に積もった雪は踏み抜くことがあります。また、間違ったルートへ迷い込む原因にもなります。
初心者の頃はトレースが無い山および時間帯に単独で入山することは極力控えた方がいいという前提ですが、トレースがあると思って行ってみたらトレースが無かったということも雪山では多々あり得ます。風が強くてトレースが消えてしまったり、条件が良い山に人が集中していたりするのが原因。
大切なのは、夏道から大きく外れないこと、進むべき道が分からない時は進まないこと、引き返す勇気を持つこと、谷筋にくだらないこと、稜線を登ること、事前にルートをよく調べておくこと。
中級以上の山では、夏山とは異なるルートを通る場合も少なからずあるので、事前のルートチェックは欠かせません。
事前知識×実践×試行錯誤=自分なりのノウハウ
色々と書きましたが、どれだけ事前に教本を読み込んでも、他人に教えてもらっても、雪山を歩くのは自分自身である以上、実践無くして成長はありません。
絶対的な正解が無いのが雪山登山だと思っていますし、画一的な正解がない以上、試行錯誤を繰り返し、自分自身のやり方を見つけたいですね。
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繰り返しになりますが、定番の山からはじめてステップアップしていくことが本当に大切です。
こちらの記事も併せてご覧いただくと、雪山デビューの疑問がよりクリアになると思います。
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