残雪期の槍ヶ岳を登ってきました!
北アルプス南部のランドマークであり、周辺の山に登っているとつい探してしまう、そんな存在ですね。私としてはこれで3度目の登頂。残雪期としては初めてで、槍ヶ岳と大喰岳から狙う穂高岳の撮影が目的です。
霧雨に濡れた槍沢の登りも、緊張感のある穂先の登攀も、山頂から望む景色も全くもって最高でございました。
今回は前回・前々回の残雪期登山の撤退を鑑みて、可能な限り山を堪能するために晴天が続く「2泊3日」の工程で臨んでいます。
前回・前々回の撤退記録
残雪期槍ヶ岳登山の概要
残雪期槍ヶ岳登山の主なルートは飛騨沢(岐阜側)と槍沢(長野側)。私は都心からアクセス良好な槍沢ルートを選んでいます。槍沢ルートは、上高地から横尾までの水平移動パート、槍沢ロッヂまでの沢沿いマイナスイオンパート、そして残雪たっぷり槍沢パートの3つから構成されます。
本ルートは何と言ってもとにかく長大なルート。片道19km・標高差1680mは北アルプスの中でもロングでタフな部類です。
急峻で過酷、いかにも雪山の技術が必要な場所…というものはないのですが、大曲をすぎてからの雪渓歩きが(楽しくも)非常にしんどいところ。最初はルンルンだった登山者も、最後にはみんな下を俯きながらとぼとぼ歩いている、そんな印象です。
槍ヶ岳山荘から先は緊張の連続。この時期の穂先には雪が残り、一部ブルーアイスのように硬く、ピッケルが刺さりにくい箇所もありました。穂先に挑戦するかどうかは、当日のコンディションやアイゼン・ピッケルの技術で決める必要が出てきます。
さわやか信州号で寝ながら上高地へ
東京のバスタ新宿(新宿のバスターミナル)と上高地を直接つなぐ「さわやか信州号(アルピコ交通)」を利用します。夜行便なので車内は消灯され、グリーンカーを利用すると3列の独立シート。さらにプライベート確保のカーテンも付いています。寝ながら上高地へ移動でき、何より朝の5:30に到着するので行動の幅がグッと広がるのが素敵。
おすすめの移動方法ですが、便数が限られるため夏期の土日は熾烈な予約争いが繰り広げられるそう。
そんなことで疲弊するよりは、平日休みを取れる体制を築いたほうが良さそうですね(汗)
静寂の上高地からスタート!
平日ということもあり朝の上高地は静寂に包まれています。松本始発のバスを利用しても上高地に着くのは7時ごろになるので、さわやか信州号は本当に便利。
そうそう・・・上高地にある水場ですが、早朝の時間帯は凍結防止のためか水が出ないことがありました。残雪期にさわやか信州号を利用する場合、自宅から水を持参した方がいいかも。
静寂の河童橋
人で賑わう河童橋もいいですが、ひとっこ一人いない静寂の河童橋も良いものです。ゴールデンウィークの時とは異なり、この辺りの植生は緑が濃くなってきましたね。
穂高は完全に雲の中。本日は午前中「雨」午後から天候「回復」との予報ですがどうなるでしょうか?
明神(6:20)
上高地から軽快な足取りで明神へ到着!
次なる目的地、徳沢を目指します。
明神を少し過ぎたあたりから登山道の両脇にお花の姿が目立つように。
この辺りでお花というと「ニリンソウ」が有名ですが、まだ時期としては少し早いのか蕾のような状態ですね(帰路に驚きの事実判明!)。しかし、GW中に来た時はまだ花の存在はありませんでしたので、2週間程度で一気に季節が前進したようです。
徳沢(7:20)
徳沢に到着して驚いたのは桜が咲いていたこと。高山帯に咲く「タカネザクラ」という種類だそうで、まさか上高地に桜があるとは思わなかったので驚きました。
蝶ヶ岳方面はいよいよ春山という雰囲気で、こちらならアイゼンもピッケルも必要ないでしょうから、早く夏山を楽しみたい方にはありがたい選択肢ですね(チェーンスパイクはあったほうが良いと思います)。
徳沢から横尾へ歩みを進めます。残雪期は夏道ではなく、上記ポイントで梓川右岸ルートに案内されます。ちなみに、こちらの道は一切アップダウンがないので歩きやすいです。横尾山荘の方がたまに車で通りますので念のため注意しましょう。
横尾(8:00)
水平移動の終着ポイントである横尾に到着!
上高地〜横尾を人生の間に何往復することになるのか…私はまだ飛騨側を全然攻められてないので、少しずつ岐阜側からの活動も増やしていきたいところ(公共交通機関のアクセスがめちゃ悪いんですよね…)。
春を感じる樹林・河原歩き
横尾を過ぎると樹林帯歩きとなり、しばらくすると視界が開ける場所が多くなります。梓川を眺めながらの河原歩きは気持ちよく、残雪期には気温も心地よく、マイナスイオンを感じながら奥へ奥へ。
ニノ俣の橋にもしっかり歩道が設けられていました。前回来た時は骨組みだけ残り、さらには凍結していたのでスリリングでしたが、今は徳沢ロッヂも営業をしているのでしっかり整備してくださっています。
少しだけ標高を上げたら槍沢ロッヂに到着!
槍沢ロッヂ(9:20)
槍沢ロッヂには机とベンチがありますので少し休憩させていただくことに。この日は平日で天気もよろしくないので人がおらず、小屋の方も中にいるのか静かな槍沢ロッヂです。
ここで雨が降ってきたのでレインウェアを着用。槍沢ロッヂより上部では雨かと思うと少し気が重くなります。明日・明後日の晴れのため頑張りましょう。
少し早い昼食
ここで少し早い昼食をいただきます。雪山登山では荷物が多く、特にテント泊をする場合は食料の重さが馬鹿になりません。さらには雪上で食べることが多く、パッと手軽に食べられるものが重宝されます。いくつか候補がある中で、私は羊羹を愛食しています。
軽量コンパクト、厳冬期でも凍らない耐寒性、150kcalあり、水気があるので食べやすい。3つ食べれば450kcal摂れるので昼食にもってこい。もちろん行動食にも◎
槍沢ロッヂの次の山小屋は槍ヶ岳山荘になります。残雪期の槍ヶ岳登山の本番は「ここから」です。殺生ヒュッテはまだ雪の中で休眠中。無理のない工程・登山計画が必要ですね。
残雪期の槍ヶ岳登山で日帰りは不可能ですので、最低でも1泊2日、余裕を持ったスケジュールで2泊3日なら快適に登ることが可能となります。
融雪進む槍沢ロッヂ上部
槍沢ロッヂより出発です。この1ヶ月で雪解けが進み、夏道が露出している箇所が目立ちました。4月〜5月は目まぐるしく季節が進むことを改めて感じます。雨が降り、晴天が続くごとに雪が溶け緑が芽吹くのでしょう。今の時期は冬と春、季節の移ろいを感じられる登山となり、個人的にすごく好きな季節です。
多くの赤旗が導く登山道
槍沢ロッヂより上部は驚くほどたくさんの赤旗が設置されており、槍沢ロッヂの方の「登山者を絶対に迷わせない」という気概を感じました(笑)
確かに、赤沢あたりは雪が多いとやや道が分かりにくい箇所もあり、上高地から続く本ルートは、初心者含め多くの人が歩くことを配慮したものでしょう。道迷いの心配がないのはありがたい限りです。
槍沢キャンプ場(10:20)
積雪が多いと苦労する場所ですが、今回はあっという間に槍沢キャンプ場まで来れました。雪の量でこれほどまで歩きやすさが変わるとは・・・前回撤退した時はここに来るだけでも一苦労でしたので、今回は問題なく槍ヶ岳山荘まで辿り着けそうだと安堵します。
槍沢キャンプ場(ババ平)での幕営は槍沢ロッヂで受付が必要なのでお忘れなく。
槍沢からの長大な登りが幕開け
ババ平を過ぎて槍沢の沢地形中へ入っていきます。
昇温により溶けたのか、槍沢下部のデブリ痕はほとんど消失していました。残雪期の早過ぎる時期に来るとこの辺りから雪崩のリスクがありますので、槍沢は早くてもゴールデンウィーク以降に利用するのが良さそうです。
今年は特に雪が少ないからか、雪渓の一部が割れて川が露出している箇所も。赤旗をトレースしながらも危険な箇所がないか注意しながら歩いていきます。
大曲(11:10)
霧雨に打たれながら大曲までやってきました!ここは大曲から天狗原分岐方面を俯瞰している場所で、右手に登って行くと東鎌尾根の水俣乗越、直進すると天狗原分岐へ。
ここまで6時間近く歩いてきましたが、何を隠そう大曲の標高はまだ2100m。上高地から600mしか登っておらず、ここから槍ヶ岳山荘へはさらに1000m標高を上げる必要があります。このルートが体力勝負だと思う所以です。
ここからようやく本格的な登りが始まります。
今日は曇天・雨ということで気温がそれほど上がらず、雪のコンディションはまずまず。ここまで順調に来れましたが・・・マジでこの先が辛いです。長いです。長過ぎです(涙)
デブリ痕を超えて
視界が悪いので今一つ見えにくいのですが、赤旗が設置されている場所にもデブリ痕があります。登山道でも雪崩れる可能性があるということを痛感しますね。残雪期は本当に難しい時期だとも。
そんな槍沢を少しずつ少しずつ登っていきます。
何を隠そうテント泊なのでそれなりに荷物が重く、視界が悪いので歩いても歩いても景色が変わらない。こういう時、精神的にも辛いものです。進んでいる感覚があまりないんですよね。
天狗原分岐(13:30)
地図を見ると分かる通り、大曲を過ぎると平坦な場所はなく、愚直な上り一辺倒となります。そんな中、天狗原分岐あたりまで来ると岩が露出している場所があり、このパートの中で唯一の休憩ポイント。時間的に問題ありませんし、ここで大休止を挟みます(雨ですが…)。
天気予報的に雨は降らないと思っていたのですが、上部は霧雨で雪が緩み歩きにくい。雨の中の雪渓歩きは初めての経験でしたので、一つまた山に教えてもらいました。
霧雨の雪渓を歩く
分厚い雲のど真ん中にいるのでしょう。小学生が思う「雲の中はどうなっている?」に対する回答のような天気でした。本来は槍ヶ岳が右上に鎮座して、その景色に励ましてもらえる場所ですが、真っ白でマジで何も見えません・・・と、よく見たら右上に殺生ヒュッテが少し写っていますね。この時は気づかなかったな。
上部に行けば行くほど白の濃度が上がり、このまま天国に繋がってんちゃうの?っていうくらい真っ白でした。
これで風も強ければ厳しいコンディションになっていたと思います。
こうなると赤旗の存在がありがたい。天狗原分岐およびその上部は広い雪渓になっているので、霧雨・濃霧時は道迷いに厳重な注意が必要です。基本的に「右に、右に」と意識しておくと良いでしょう。左に行くと南岳・大喰岳の稜線へ向かってしまうので要注意です。スマホのGPSも必携装備ですね。
殺生ヒュッテ(15:00)
見えないので確信は持てませんが、おそらく殺生ヒュッテあたりの標高に到着!この辺りに来るとしばし傾斜が緩むので「地獄が終わったか?」と思うのですが、ここから最後の急登が容赦ないのでもう一踏ん張りです。
というかマジで真っ白すぎて何も見えない!GPSや赤旗がなければ「自分の居場所」の見当がつかないくらい真っ白。上部は完全にホワイトアウトしていました。
北アルプスのアイドル「ライチョウ 」登場
ガスっていたって、雨だって、山は山。どんな姿も愛したい・・・とは言ったって本当は景色が見たい!!!
ガスって落ち込んでいる時、北アルプスなら耳を澄ませてみましょう。「グアーグエー」というカエルのような声が聞こえるかもしれません。
悪天候で視界が悪い時に現れる北アルプスのアイドル「ライチョウ 」が近くをお散歩しているかも。
この日は10羽以上のライチョウが槍ヶ岳山荘近くをお散歩していました。まるで一緒に槍ヶ岳を目指して登っているかのよう!可愛すぎるー!鳴き声は可愛くないけど(笑)
こちらは夫婦でしょうか?どうやら赤い目印があれば必ず雄というわけでもないらしく、ちょっと調べてみると雄・雌の判別はなかなか難しいようです。ただ、このカップルだけでなく2羽で行動しているカップルを他にも2組ほど見ました。おそらく夫婦なのでしょう。
槍沢にもライチョウがこんなにいるとは思わなかったので驚きました。
悪天候で不貞腐れたくなる時、雷鳥を見れるだけで一気に心が晴れ渡るようです。
最後の急登…!!
急登で死にそうになっていると、ようやく槍ヶ岳山荘を目視できました!!
ちなみにまだ槍ヶ岳は見えません(真っ白で)。
こうしてみるとサクッと登れそうなのですが、ここまでで体力を消耗しており、非常に疲れています。最後の急登は角度が厳しいため見えているのになかなか辿り着かない。
槍ヶ岳山荘(16:00)
残雪たっぷりの槍ヶ岳山荘に到着です!いや〜めっちゃ疲れた!
それにしてもこの残雪・・・5月中旬とは思えない積雪です。
本日はテント泊は私1人。山小屋泊が2人の計3人とのこと。そんなに空いているなら山小屋泊でもよかったなと思いつつ、テントを背負ってきたのでそれはそれで悔しい。テントの受付を済ませて一息つきます。
体力回復に最適なジュースは?
槍ヶ岳山荘の自販機にはネクターがラインナップ。これは嬉しい。
これは私の自転車日本一周の経験からですが、あらゆる飲み物を試した結果、ネクターが疲労回復には一番だと思っています。体力を使い果たしたといに注入するネクターの威力は凄まじく、体力が一気に回復するのを感じます。
槍ヶ岳山荘にて幕営(テント泊)
小屋前では除雪機が忙しくなく稼働していました。小屋前のツルツルの道を通ってお隣の幕営地へ。
ここで一人テントを張るのは一見もの寂しく見えますが慣れたもの。テント場は完全に積雪していますが、気温が高く快適なテント泊となりました。
午後になると天候回復??
午後になると天候が回復するというヤマテン予報でしたが、天候が回復するどころかテント場から槍ヶ岳山荘が見えないくらい真っ白です。笠ヶ岳の監視カメラを見たところ、超分厚い雲が2500mあたりから上にかかっているようでした。
槍ヶ岳山荘から槍ヶ岳が見えないくらい真っ白でしたね。これはこれで貴重な経験かも?
岩陰にテントを張って一段楽。早々に夕食も澄ませてシュラフへと潜り込むのでした。
日没間際に槍ヶ岳がお目見え!
日が暮れようかという頃、テントから出てみると少しずつガスが晴れてきました。明日は文句なく晴れると思うので、天候回復の兆しを感じられて一安心です。
晴れていたら槍ヶ岳に登って穂高の夕景を狙うつもりでした。明日の朝に穂先から撮影するのは絶対外せない。このままだと初の残雪期槍ヶ岳の穂先登攀がナイトハイクになりそう。できれば明るいうちに一度登っておきたかった。ルート上は残雪たっぷりっぽいので慎重に行かねば。
明日を想いながらシュラフに潜り込み、早めの就寝です。
北アルプスを覆う満点の星空
夜中に起きてテントから顔を出すと、頭上には満点の星空が広がっていました。
2日目・3日目の様子は後半へと続きます。
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