【北アルプス】槍ヶ岳 残雪期登山(後編)凍る穂先のナイトハイクから、360度の大展望へ!

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残雪期槍ヶ岳登山の後編(2日〜3日目)です。初日は霧雨の中を上高地から槍沢経由槍ヶ岳山荘まで上がってきました。日没まで濃厚なガスに巻かれた稜線ですが、夜にテントから顔を出すと新月期らしい満点の星空が北アルプスを覆っていました。

目次

目を見張る満点の星空

天気確認のためにテントから顔を出すとまあびっくり!目を見張るような満点の星空が頭上に煌めいています。星撮影をメインに来たわけではありませんが、思わずシャッターを切りたくなるような眩い星空です。テント場の南に大喰岳があるので天の川と合わせて1枚。

これだけ星が綺麗ならば槍ヶ岳の山頂から穂高と天の川を合わせて撮りたかったところですが、天の川は0時〜2時ごろがピークでしたので今回は断念。星は改めて撮る機会を設けたいと思います。

槍の穂先をナイトハイク

さあさあ!ご来光のタイミングに合わせて槍ヶ岳の穂先を登っていきましょう。新月期なので真っ暗。ヘッドライトの明かりを煌々と輝かせながら慎重に進みます。穂先には道案内のため十分すぎるほどの矢印が描かれており、道筋は明瞭。

基本は夏道と同じ場所をマーク通りに進みます。とは言え、積雪期の槍ヶ岳は初めてなのでルートファインディング含めかなり慎重に登りました。写真は3日目にナイトハイクした時に撮影したものです。初日は登ることに集中していたため、写真を撮る余裕はありませんでした。

傾斜の厳しい雪面を攀じ登る場所が複数箇所あるものの、登りに関してはアイゼンとピッケルを効かせることで割とスムーズに突破できました。問題は下りですね。登りながら早くも下山ことを思い気が重くなるのでした。

アイゼンを装着しながらの梯子はやや難儀します。アイゼンをしっかり引っ掛けながら慎重に進みます。

槍ヶ岳登頂(3180m)

ナイトハイクという試練を乗り越え残雪期の槍ヶ岳(3180m)を登頂しました!

新しい時期に新しい頂を踏むことってやはり嬉しいもの。ご来光前に無事到着できてよかった。夜明け前で空が明るくなってきましたが、穂高方面でシャッターを切るとかろうじて右上に天の川が映り込んでいました。

ご来光と朝焼けの北アルプス

常念山脈の後ろからご来光です。最高に気持ちの良い朝を迎えることができました。

東には少し雲があり、真っ赤に染まるようなモルゲンロートにはなりませんでしたが、それでも十分すぎるほどのご褒美。苦労してたどり着いた山頂から眺める景色はいつだって最高なものです。

この日は360度の大展望だったので周囲の景色を堪能していました。

笠ヶ岳

岐阜県自慢の笠ヶ岳がうっすらと赤く染まる。ご来光の少し前から飛騨側には雲海が流れ込んで神秘的な光景です。残雪もまだまだ豊富ですね。

乗鞍岳・焼岳

こちらも残雪たっぷりの乗鞍岳と融雪の進む焼岳。乗鞍岳の背後には大きく御嶽山がそびえています。

穂高岳

槍ヶ岳は穂高岳を撮影する上で外せないスポット。槍ヶ岳からの穂高撮影には中望遠が最適で、105mm以上あると良いですね。撮影の参考にしてみてください。ちなみに標準レンズ(〜70mm)ではイマイチ良い写真は撮れません。

北鎌尾根

言わずと知れた北鎌尾根は槍ヶ岳山頂から俯瞰すると、取り付き場所がどこなのかわからないくらい下降ポイントは急峻なようです。夏の北鎌尾根は挑戦しても良いなと思いつつ、アプローチがかなりしんどいようなので悩み中。

立山

山頂の祠の裏手、遥か遠くに立山を望みます。

双六岳・黒部五郎岳

肉眼ではイマイチパッとしない景色も望遠で眺めてみると面白く、特に裏銀座方面は望遠や双眼鏡がないと今一つ全体像が掴めません。

槍ヶ岳から眺めても双六岳の双六台地はよく目立ちます。ちなみに双六から眺める槍ヶ岳って本当にかっこいいので未踏の方は一見の価値ありです。双六岳の奥に位置するピークは黒部五郎岳。大きなカールを抱いているのがよくわかります。

鷲羽岳・水晶岳・薬師岳

双六岳から右手に視線を動かすと鷲羽岳が、そのさらに右奥には水晶岳が見えてきます。鷲羽岳の左奥にある真っ白な山塊は豪雪で知られる薬師岳です。薬師はまだ未踏なのでいつか登りたいと思っている一座。富山からのアクセスなのでちょっと遠いんです。折立はクマ問題もありますしね。

三俣山荘

肉眼では全く見えませんが望遠レンズでは三俣山荘も探すことができました。

恐怖の下山

山頂からの景色を堪能したところで穂先からの下山に取り掛かります。アイゼンを装着したままの梯子下りも難儀しますね。ピッケルがすごく邪魔なのでザックのウエストベルトの間に差し込んで対処しました。

一つのミスが命取り

真に怖いのはここから先です。登る時はなんとも思わない傾斜でも、上から眺めると足がすくむような角度に。落ちたら大怪我では済まされないような場所なので、一回のミスが命取り。アイゼンをズボンに引っ掛けるとか、そういった凡ミスは許されない場所です。慎重に、慎重にいきましょう。

積雪している箇所は基本バックステップで下ります。ピッケルとアイゼンを効かせながら、鎖が露出して使えるところは活用します。

鎖は場所によってまだ雪に埋まっていますので、アイゼンとピッケルだけで下りられることが大前提。

アイゼンの前爪をしっかり効かせながら慎重に降ります(紐がねじれているのは愛嬌ということで笑)。

記録によってはダブルアックスを推奨している人がいますが、鎖を掴むことや梯子の下降を考えるとピッケルは一つでいいと思います。

ピッケルが入るところはいいんですが、場所によって氷がガチガチに固まり刺さりにくい箇所もありました。穂先のコンディション・難易度は時期により異なると思いますので、不安な方は穂先の雪が溶けてから挑戦した方が良いでしょう。

下りはかなり怖いです。私のお墨付きです。

槍ヶ岳山荘へ生還!

核心部を過ぎてほっといと息。昨日の雨の影響もあってか、氷が思った以上にガチガチでした。

無事生還できたことを祝してペプシで乾杯!山小屋が営業しているってなんて素晴らしく、ありがたいんだ。

ヘリコプターによる荷揚げを見学

山小屋前でまったりしていると「本日はヘリによる荷揚げがあるので気をつけてください」とのアナウンスが。程なくして東邦航空のヘリコプターが颯爽と登場!

物資の荷揚げを間近で見るのは初めてだったので、ちょっとしたショーを見ているようでした。

それはあっという間の出来事。ヘリが稜線近くにホバリングして、荷物をランディングさせた直後に山荘スタッフが物資を外し、送り返すゴミなどを繋ぎ直して合図を送る。ヘリはあっという間に飛び去って行きました。ヘリの操縦士も山小屋の方もすご過ぎますね!良いものを見させていただきました。

なんだか漫画の『岳』みたいな世界でしたね。こっちがリアルなんですが(笑)

「プラス1泊」で山時間を堪能

今回の登山は2泊3日で来ているので今日は稜線でゆったりまったり過ごすことができます。このゆとりこそが最強の山の楽しみ方。タイトスケジュールで長距離を踏破するのも良し、同じ山頂でたっぷり時間を使って過ごすも良し。

私は写真が撮りたいからではありますが、同じ場所でまったりした時間を山の中で過ごすのが好きです。「プラス1泊登山」すごくおすすめですよ。

テントから槍ヶ岳を眺めてビールを飲んだり本を読んだりしてみてはいかがでしょうか。

昼食は「キッチン槍」で麻婆なす丼

連泊する時こそ、山小屋の存在がありがたい。2泊3日分の食糧を全て担ぐと結構な量になります。せめて昼食だけでも山小屋でいただけるとありがたい。

槍ヶ岳山荘の昼食(キッチン槍)は日帰り登山者やテント泊でも利用できます。麻婆茄子がラインナップしているとは恐るべし槍ヶ岳山荘。あと、お茶一杯無料のサービスが嬉しすぎます。

withコロナ対策として仕切りも設置されていました。

槍を眺めながらの優雅なビール

残雪期の平日ということで登ってくる人もまばらな槍ヶ岳山荘。夏には賑わいを取り戻せるのか・・・世の中の情勢によりそうです。

山に1日いると『暇』になります。その時間がなんと愛おしく、なんと優雅なことでしょうか。

午後になると稜線はガスに覆われ・・・

昼ごろから稜線は雲に覆われるようになってきました。ヤマテンでも午後から雲が多くなる予報でしたし、テントでしばしお昼寝タイム。今の時期はテント内の温度が快適で本当に心地よい。

夕方は大喰岳への稜線ハイク

日もだいぶ傾いた頃、雲の高度が落ち着いたところで大喰岳へ向けて稜線ハイクをスタート。大喰岳への道はテント場奥のほうにあります。大喰岳までは時間にして30分かからないくらいの距離です。

テント場の下部はすでに雪解けしているみたいですね。夏道を辿りながら大喰岳を目指します。

特に危険な箇所もないので槍ヶ岳で1泊する場合は大喰岳まで足を伸ばしてみるといいかもしれません。大喰岳も同じく3000m峰ですし、槍ヶ岳とはまた違った趣の景色が楽しめます。

山頂直下だけ急斜面になっています。トレースがなくて一番手だとちょっと苦労するかも。

大喰岳(3101m)

大喰岳(3101m)に登頂です!

着いた瞬間、穂高を流れる雲の動きに大興奮。雲の動きって山岳写真ではA5ランクで嬉しい景色。もう少し早めに来てもよかったな・・・。大喰岳山頂から中岳方面の稜線は平坦なのでどこから写真を撮るか悩みましたが、結果としては大喰岳山頂が一番よかったと思います。

槍ヶ岳山荘からは穂高岳が見えないのですが、大喰岳まで来ると穂高が迫力ある姿で迫ってきますね!誰もいない稜線ではしゃぐようにシャッターを切ってました。

山の黄昏時

日没前の黄昏時、淡い色調の空が夜に向かって少しずつ暗くなっていく様子もたまらなく好きです。

それにしても今日は良い1日だった。満点の星空・朝焼けの撮影・夕焼けの撮影。こんな恵まれた1日はそうそうありません。そう思うと大喰岳からテントまで戻る私の足取りは非常に軽く、心躍るような気持ちで1日を終えることができました。

3日目の朝、残念ながら曇り空

3日目も気合を入れてナイトハイクです。穂先の登攀は非常に神経を使うのでちょっと悩んだのですが、行かなきゃ損ということで再び山頂へ。

しかし。残念ながら雲が多く、私の言うところの梅干し太陽になってしまい撃沈。薄雲が多くてご来光は見えるけれども太陽光が届かない状態です。

「せっかく(2回目の)ナイトハイクして登ってきたのにー!」という気持ちはありますが、それが山であり、それが自然です。そうそう思う通りにはいきません。やはり高気圧が東海上に離れていく日は雲が多くなってしまって難しい。

下山

槍ヶ岳を十二分に堪能し、山行もいよいよ終盤戦。上高地に向かって下山開始。

昨晩のうちに雪崩発生?

槍沢の天狗原分岐あたりまで下りると景色が一変。あたり一面デブリに覆われているじゃありませんか!

あれ!?

初日もデブリはあったものの、こんな大量にあったかな・・・。写真に写っている方は昨日登ってきたようで、お話しすると「ここまでデブリはなかった」ということ。昨晩のうちに雪崩が発生した可能性がありそうです。

ずっと上の谷筋から雪崩ていました。こうしてデブリを間近でみるとやはり恐ろしいものです。

残雪期と雪崩

もし自分が歩いているときに雪崩が襲ってきたらと思うとゾッとしますよね。厳冬期にこのような谷筋を歩くことは稀なので、ある意味では残雪期の方が雪崩との遭遇率が高いとも言えます。今回はたまたまラッキーだったという謙虚な気持ちでこれからも雪山登山と向き合いたいと思います。「こえー!」と思いながら、リスクを小さくすることが重要だと思います。

冬と春の山景色

5月中旬の北アルプスは冬と春が同居する景色。新しい季節・緑が萌えるとても美しい時期です。秋から冬に変わる初冬も好きですが、冬から春に変わる残雪期も大好きな季節になりました。

ニリンソウ

横尾まで降りてくると登山道脇に例のお花が咲いているじゃありませんか!この時は「ここ2日でお花が開花した!」と思っていたのですが、どうやらニリンソウは朝と夜は花弁を閉じる性質を持っているらしく、昼間しか開花した姿を見ることができないようです。

まだ最盛期ではありませんが、横尾から明神までニリンソウが彩る登山道は歩いていて楽しく、新緑やニリンソウに目を奪われながらの横尾〜上高地の下山は苦ではありませんでした。ニリンソウが咲いているなら何度だって歩けるのに(笑)

登山完了

上高地に戻り無事に登山完了!

さっきまで穂高より遥か先、槍ヶ岳の穂先にいたのかと思うと感慨深いものですね。この後はいつものように上高地からバス・電車で松本へ。松本からはビールを飲みながら登山を思い返して悦に浸りつつ新宿へ。お疲れ様でした!

登山計画&コースタイム

1日目
上高地 (5:40)→ 明神(6:20)
明神(6:20)→ 徳沢(7:10)
徳沢(7:20)→ 横尾(8:00)
横尾(8:00)→ 槍沢ロッヂ(9:20)
槍沢ロッヂ(9:20)→ 大曲(11:10)
大曲(11:10)→ 天狗沢分岐(13:30)
天狗沢分岐(13:50)→ 槍ヶ岳山荘(16:00) 
2日目
槍ヶ岳山荘(3:30)→ 槍ヶ岳(3:50)
3日目
槍ヶ岳山荘(6:30)→ 上高地(13:00)

残雪期槍ヶ岳(穂先)登山ルート

どれくらい需要があるか分かりませんが「穂先の登山ルートを事前に確認しておきたい」にお答えすべく望遠レンズで穂先の写真を撮っておきました。ルートの矢印や梯子までしっかり写っていると思いますので、不安な方は一度見ておくと(多少は)気持ちが和らぐかもしれません。予習にお役立てください。

残雪期槍ヶ岳の装備について

槍沢から槍ヶ岳山荘まではストックが必携装備かと思います。アイゼンをつけるかどうかはコンディションによるでしょう。私は使いませんでした。ピッケルも同様に使っていません。翻って、槍ヶ岳の穂先はピッケルとアイゼンが絶対に必要で必携装備です。雪解けの状況により変わりますので、ライブカメラで雪がほとんど溶けていると感じれば、槍ヶ岳山荘へ相談してみると良いでしょう。

テント泊装備やウェア類についてですが、5月のゴールデンウィーク以降は強い寒気が入るとマイナス5℃程度まで下がることもありますが稀です。基本は0℃以上であることがほとんどですので、厳冬期レベルの装備は不要なことがほとんど。例えばマットはネオエアーXサーモを今回持って行きましたが、ややオーバースペックに感じました。寒さを一切感じません。

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3,000mで5℃以上あれば10月〜11月くらいの防寒対策で十分だと思います。

1日目の記録はこちら

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