山岳写真における標準・広角・望遠レンズの使い方とそれぞれの特徴や注意点

登山をしながら写真を撮ったり、あるいは撮影のために山に登ったり。自然の中に身を委ね、山と対峙する山岳写真は本当に楽しい。難しいことを考えずにシャッターを切るだけでも楽しいですが、どうせならカッコイイ写真が撮りたい。

登山では持ち運べるレンズの数に限りがあるため、撮影対象や登る山に適したレンズを選ぶことが重要。山岳写真を撮る場合、標準・広角・望遠レンズをどのように使い分けるのか、また、それらのレンズでどのような写真が撮れるのか、それぞれの特徴や撮影の注意点をまとめました。

目次

山岳写真の主役は「標準から望遠」

山岳写真の大家である田淵行男先生は著者の中で、望遠と広角を以下のように例えています。

望遠は塩、広角は砂糖

砂糖はなくても我慢できるが、塩の欠如は深刻である。この意味で、どうやら山の撮影における望遠は塩で、広角は砂糖というふうに言えそうに思うのである。

山は魔術師

私もこの意見に同意です。田淵先生だけでなく、山岳写真集に掲載されている写真の多くは中望遠から望遠レンズで撮影されたものが多く、時代背景を加味しても広角レンズにより撮られた作品の数は圧倒的に少ない。これにはいくつかの理由がありますが、端的に言うと・・・

全体を写しすぎないことが重要だからです。

再び田淵先生のお言葉を借りますが、先生はこうもおっしゃっています・・・

部分は全体より大なり・・・と。

全体を写し過ぎるとテーマがブレる

全体を写し過ぎた「記念写真」

この記事のテーマにあるように、広角レンズや望遠レンズの特徴を知り、使い分けることは山の写真を撮る上でとても重要です。山岳写真の主な被写体である山体は、遠くにある風景であり、大きく高度のある被写体であるという点で、一般的な風景写真とは異なります。

作品にするならテーマを絞る

ケースバイケースではありますが、山全体を写しすぎると、記念写真のように可もなく不可もない写真になってしまう傾向が強くなります。

写真の良し悪しは好みにより判断されるものであり、絶対的な指標はありません。しかしながら、作品としての向き不向きはあります。山岳写真に限って言えば、山全体をむやみに写さないことが重要。山岳写真集で望遠レンズが多用されるゆえんです。

上の写真を比較した場合、作品集に入れるのであれば、左は全体を写しすぎており「何が撮りたいかわからない」ので使いにくい。右はテーマが明確なので候補になります。

望遠レンズ

望遠レンズの定義は人により異なりますが、多くの場合、フルサイズのカメラで70mmあるいは120mm以上を望遠レンズと呼びます。

山岳写真を撮る上で最重要だと言っても過言ではない望遠レンズ。望遠レンズが優れているのは、自分が最も感動した部分に焦点を当てることができること、圧縮効果により山の持つ力強さを表現できること、テーマを絞った作品向けの写真が撮りやすいことです。これらの理由から、望遠レンズは山岳写真で多用されます。

山岳写真に望遠レンズが向いている理由

山の持つ造形的な面白さ、山と雲が織りなす静と動のハーモニー、光が当たった美しい山肌・・・山という大きな被写体も、分解すれば多くの要素から構成されており、狙った部分を的確に写すことが重要なのは言うまでもありません。

山というのは概して遠く離れた場所にある被写体。だからこそ、狙いを定め、遠くを撮影できる望遠レンズが重宝します。

先達の山岳写真集を見比べると、望遠レンズで撮られた写真が多いことに気がつきます。SNS慣れした現代では、一見すると広角レンズでさまざまな要素を取り入れた写真の方が見栄えするように思えます。しかし、時間をかけて写真と向き合えば向き合うほどに、テーマが明確でない写し過ぎの写真は「作品集」で使いにくいと感じるものです。

山岳写真集では望遠レンズが多用されますが、広角レンズが劣っているという意味ではありません。主題を明確にする作品集で使うことを念頭におけば、やはり望遠レンズが使いやすいですが、例えばSNSを中心に活動するのであれば、広角レンズで景色を広く写すことも一考でしょう。

大切なのは被写体との距離感を掴むこと

主題を明確にすることが重要と紹介しましたが、撮影対象の山が割と近くにあり、標準レンズの方が都合が良い場合もたくさんあります。大事なのは、望遠だから優れているとか、広角だから使えないとか、そういった単純化された議論ではなく、シーンごとにレンズを使い分けることです。

その上で、一般論として、望遠レンズを使えば主題を明確にしやすく、山全体を写しすぎる失敗を避けることができるというお話でした。

山麓からの撮影は望遠レンズが最適

山麓から山の写真を撮る場合、望遠レンズが最も理にかなっています。稜線から撮る場合と比較して、山が圧倒的に離れていることが多いので、山を大きく写すために望遠レンズが必要です。200mm以上の超望遠レンズが向いている場合もあります。

圧縮効果を利用すれば迫力ある画にすることが可能。特に、山麓から撮影する場合は前景に地上景を入れることが多いと思うので、圧縮効果が効きやすい。地上から撮る場合は広角レンズや標準レンズではなく、望遠レンズで山を大きく写して、ダイナミックな写真を狙うのが楽しいですね。

伯耆大山や富士山のような独立峰、あるいは甲斐駒ヶ岳や常念岳のように山岳地帯の端にある山は地上から狙いやすい山だと言えます。

望遠レンズ x 山岳写真はSNSに向かない?

一方で、望遠レンズで撮った写真はスマホなど小さな画面で見ると、地味に写ってしまう傾向があります。SNSでは写真映えしないことも多いと個人的には感じており、SNSで写真をシェアすることに写真活動の主眼を置くのであれば、広角レンズの方が向いていることも多いでしょう。個人的には、望遠レンズは玄人向け、広角レンズは大衆向けだと思っています。

望遠レンズで感動を切り取る

被写体を大きく写すには、風景全体から部分を切り取るセンス、被写体となる部分を見つけ出すセンスが求められます。光の陰影、雲の動き、岩の造形・・・写真の中にアクセントや動きを取り入れることが望遠レンズでは大切だからです。

ダメな例:単に寄ればいい訳ではない

望遠レンズを使えば被写体によることができる、ではなぜ寄って撮影したのか、その意図が読者に伝わる必要があります。単にドアップで撮っただけの写真と言われないためにも、なぜ被写体にグッと寄って撮影したのか、その意図が感じられるか否かが重要ですね。

私の写真集にも望遠レンズで撮った写真がたくさん掲載されています。もしよければ手に取ってみてくださいね。

山岳写真に必要な焦点距離(テレ端)

撮影 200mm

山岳写真で必要なテレ端(望遠側)は200mmで十分なことがほとんどですが、翻すと、200mmを超えるような超望遠レンズで山の写真を切り取ることができれば、新しいジャンルとして開拓の余地があると言えます。

レンズの選び方

私は標準から望遠まで取れる高倍率ズームレンズ24-200mを使っています。大三元レンズ70-200mm、あるいは中間の24-120mmを選ぶか、悩ましいところだと思います。標準レンズとの組み合わせも重要。夏山登山では標準レンズ+望遠レンズ、冬山では高倍率ズームレンズと使い分けるのも手です。24-120mmを選んだ場合、120mm以上の画が欲しい時に辛い思いをするかも。自分の写真を見返して、120mm以上の写真がどの程度あるか調べてみるのが良いと思います。

標準レンズ

焦点距離 70mm

山での記録写真、あるいは山岳写真として作品を作る場合、標準レンズ(24-70mm)の汎用性は非常に高く、望遠レンズと並んで重要なレンズです。

特に稜線から山と対峙して写真を撮る場合、望遠レンズでは近景(前景)を写すことが困難で、標準レンズの方が使いやすいという場合も多く、標準レンズと望遠レンズはセットで山岳写真には必須のレンズと言えます。

準広角から準望遠までこなす便利なレンズ

焦点距離70mm

私たちの肉眼は焦点距離にして40mm程度の画角であり、目で見た景色に近い写真が撮れるという意味で、標準レンズは扱いやすく、あまり難しいことを考えずに写真が撮れます。

加えて、多くの標準ズームレンズは24mmから撮れるので、24mmで広角を意識した構図を作ったり、70mmで山に寄ったりと、バランスよく撮影することが可能です。

山岳写真では撮影する場所を少し移動しただけで、構図に驚くような変化が生まれるもの。特に前景を入れる構図では標準レンズが力を発揮します。山岳写真では望遠レンズが多用されると紹介しましたが、標準レンズも欠かすことができない重要な存在です。

標準レンズはセンスが問われる

標準レンズはバランスが良く、自由度が高いレンズだからこそ、やや引いて広角っぽく撮るのか、寄って望遠っぽく撮るのか、あるいは前景・中景・遠景を意識して三分割構図で撮るのか・・・撮り手の好みや意図が色濃く反映されます。その意味では、カメラマンのセンスや力量が問われるレンズかもしれません。

レンズの選び方

標準レンズでは、個人的な意見として大三元レンズは不要だと思っています。特に、山岳写真では選ぶ理由があまり思いつきません。レンズの重さに対して得られる描写性能が見合っているとは思わないからです。24-70mm F4でも十分過ぎるほど綺麗な写真が撮れますし、他にも高倍率ズームレンズが2本ある中で、あえて標準レンズに大三元を選ぶ理由はあまりなく、強いて言えば、F2.8の強みを活かして星も撮りたい場合でしょうか。

広角レンズ

広角で写すと山の形が変形する

山岳写真で広角レンズ(14mm – 24mm)を使う場合、注意すべきことがいくつかあります。広角レンズで写すと多かれ少なかれ山が変形してしまうこと。レンズを向ける角度により山が細くなったり、逆に潰されたような形になったりします。広角レンズの歪みは縦に尖った被写体で目立ちやすく、槍ヶ岳のような尖峰では特に注意が必要です。

前景に地上景・遠景に山という風景写真を撮るなら広角が便利

遠くのものが小さく写る性質があるため、撮りたい被写体が遠くに位置する場合、何を撮りたい写真なのか意図がぼやけてしまうことも。

反面、目の前にある被写体を大きく写すことが得意。手前や前景に高山植物を配置して、ダイナミックで見栄えする写真を撮ることが可能。ただし、そういった構図は山そのものというよりも、手前に配した前景を含めた「風景写真」として成り立っていることに留意しましょう。

視線誘導の多用に注意

視線誘導という言葉がよく使われます。手前に配置した前景から遠景にある被写体まで視線をダイナミックに動かすことが狙いの写真です。山岳写真の場合、自ずと山が遠景に配置されるため、どうしても山岳写真というよりは風景写真の雰囲気になりがち。

それが悪いということではなく、その写真で意図するものが「山を含めた風景」なのか「山そのもの」なのか、自分が写真を通じて伝えたいメッセージがどちらなのか、整理しておくと良いでしょう。

広角レンズは蜜の味

広角レンズで漠然と撮った悪い例

何も考えずに広角レンズを山へ向けると、山体が小さくなってしまい、何を撮りたいのかわからない写真になりがちです。これを防ぐために近景の高山植物や特徴的な岩を前景に写し込む訳ですが、特徴的で見栄えする近景が簡単に見つかるとは限りません。写す必要が本当にあるのか疑問符がつくような登山道やハイマツを無理やり前景にしている写真をSNSでよく見かけますが、自分がどんな写真を撮りたいのか、そこで広角レンズを使うことが妥当なのか、よく考えて使うことをおすすめします。

山の星景写真

山の星景写真を撮るのに広角レンズは外せません。星をグルグル回す場合でも、天の川を写す場合でも広角レンズがあるとダイナミックな星景写真を撮ることができます。

山岳写真で広角レンズを使うときは、何を撮りたいのか、なぜそこで広角レンズを使う必要があるのか、しっかり意識することが大切です。感動的な空を大きく写し、地上景として山を入れる場合など、広角レンズが活躍する場面もたくさんあります。

標準レンズでは見栄えしないときに、広角レンズで前景を大きく写し撮影することで「それっぽい」写真を撮ることも可能です。これを良いと捉えるか悪いと捉えるかは人それぞれですが、SNSにアップする目的であれば効果的かもしれません。

撮影登山に持っていくレンズの決め方

望遠レンズ

ほとんど全ての登山で推奨。望遠レンズといっても私のように標準レンズと望遠レンズ一体型の高倍率ズームレンズを使う手もあります。いずれにせよ、山岳写真で望遠レンズは必携です。

標準レンズ

こちらも望遠レンズ同様に必携のレンズ。稜線から写真を撮る場合、望遠では寄りすぎてしまうことがあります。そんな時に標準レンズがないと困りますね。

広角レンズ

撮影場所と撮影対象がどれくらい離れているかをあらかじめよく調べること。例えば西穂高岳の独標から穂高を撮る場合、距離が近いので広角レンズが役に立ちます。撮影距離が近い場合は広角レンズも忘れず持っていきたいですね。星を撮る場合も活躍してくれます。

登山に制限はつきもの。持ち運びできる機材には限度があるし、撮影の決定的瞬間にどのレンズを選ぶかも悩ましい問題です。だからこそ、持ち運ぶレンズの特性や撮影時の注意点を学びながら、満足ゆく写真が撮れるようになりたいですね。

標準・広角・望遠レンズの基本がわからないという方、ニコンのレンズレッスンがとてもわかりやすかったのでおすすめですよ。

Lesson1:ズームレンズ(ニコンのレンズレッスン)

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