北アルプスで夏山登山(7月~8月)を楽しむための服装・持ち物・注意事項

新緑や高山植物が目を楽しませてくれる、1年で最も山が賑わう夏の登山。北アルプスでは長い積雪期と梅雨が明け、2.5ヶ月ほどの短い夏がやってきます。

一口に北アルプスと言っても北は剱岳や後立山連峰、南は常念山脈や穂高連峰と広い山域を指しますが、夏山に限って言えばこれら山域による違いがほとんどありません。

日照時間が長いので登山計画が立てやすく、山小屋が営業しているので安心感がありますね。積雪期とは異なりアイゼンやピッケル など特殊な道具も必要ありませんし、北アルプスが初挑戦の人でもチャレンジしやすい季節です。

そんな楽しい北アルプスでの夏山登山において、注意すべきことや知っておくと便利なことをまとめてみました。

目次

7月・8月の季節変化と必要な登山装備

北アルプスの夏山というと梅雨明けから紅葉までの期間を指すと思いますが、そう言った意味では本来は9月中旬までを夏山と呼んでも差し支えないかもしれません。

9月に入ると朝晩の気温が一気に低くなり、かなり寒くなる日も出てきます。

ただ、7月・8月は朝晩でも最低気温が15℃から10℃ある日がほとんど。標高の高い北アルプスでも温暖で過ごしやすい季節ですね。

7月の北アルプス

7月上旬は梅雨のためぐずついた天気が多く、気温もやや低くてまだ夏という雰囲気ではありませんが、7月中旬頃の梅雨明けを皮切りに、眩いばかりの新緑が美しい時期です。この頃には梅雨の長雨で残雪が融けて歩きやすくなります。

ただし、写真のように7月では残雪が残る沢筋も多く、場合によってはアイゼンやチェーンスパイクが必要です。

山小屋が近くにあれば営業開始に合わせて雪切りしてくれる箇所もあります。写真は槍沢から氷河公園へ向かう急斜面を南岳小屋が雪切りしてくれているもの。

残雪の状況や雪切りの状態は山小屋の公式サイトやSNSをよくチェックしましょう。特に山小屋のブログは営業日直前に更新されることもあるため定期的なチェックが必要です。

7月中旬から下旬に訪れる梅雨明け。梅雨明け直後は梅雨明け10日と呼ばれ、安定した晴天が期待できます。

近年は地球温暖化の影響か梅雨明け10日がない年もあるようですが、いずれにせよ梅雨明け直後は夏山登山を楽しみにしている人にとって絶好の機会なので、梅雨前線と太平洋高気圧の動向には目を光らせておきましょう。

8月の北アルプス

限られた斜面を除いて残雪はほとんどなくなります。気温も高いため朝晩でも薄着で過ごしやすく、晴れた日の昼間には容赦ない日差しが降り注ぎます。

7月でも同じことが言えますが、特に8月の日射は凄まじく、必ず日焼けどめを塗った上で登山に臨みましょう。標高の高い北アルプスでは紫外線が強く、日焼け止めを塗らないと強烈な日焼けで後悔することになります。

熱中症による行動不能も起こりえますので、特に高齢の方はこまめな水分補給、日陰での休息を挟みながら登ると良いかと思います。

夏山登山での注意事項

北アルプスでの夏山登山を安全にを楽しむための注意事項をまとめてみます。

避けて通れない「湧き上がるガス」

夏山では朝のうちは晴れていても、夕方になるとガスってしまうことがほとんど。夏山登山で夕焼けが見られたらとてもラッキーです。

ガスの湧き上がり方はパターン化しており、早い時は朝8時や9時から雲が増え、11時頃にはガスってしまうことも。高気圧に覆われて完全に晴れ予報の日でも、13時ごろには積雲が発達して14時には真っ白ということがほとんどです。

一方、日の入り直前の17時から18時頃には再びガスが晴れてドラマティックな夕焼けが見られることもあります。

夏山最大の脅威「落雷」

午後になり積乱雲が発達してきたら要注意。落雷の危険性が特に高い日などはヤマテンでもアナウンスがありますので、参考にするといいと思います。

積乱雲が発達して、遠くから雷の音が聞こえてきたら最大限の注意が必要です。過去には、歩いている登山者に雷が直撃して死亡しているケースもありますので、発達した積乱雲が接近してきた場合には安全な場所(山小屋)に避難しましょう。

落雷のリスクが高まっている時間帯は、できるだけ高くて尖っている場所から離れることも重要です。例えば槍ヶ岳の山頂は雷が落ちやすい場所。午後の積乱雲が接近している状況では登らないという判断も必要です。

真夏は対策必須「日焼けと日射病」

残雪期の日焼けも強烈ですが、夏山の日焼けも馬鹿にできません。特に北アルプスのような標高が高い場所は紫外線の影響が大きく、必ず日焼け止めを塗りましょう。

それと同じく日射病にも注意が必要。水場で顔を濡らしたり、こまめに水分補給を行う。無理して歩かない、日陰で休むなど日射病への対策は欠かせません。

夏山の風物詩「夕立」

朝は雲ひとつなく晴れていたのに、太陽が登ってからは物凄い勢いで雲が湧き、午後遅くなるとにわか雨が降る。これは夏山の典型的なパターンです。かなりの確率でにわか雨がありますので、ザックカバーとレインウェアは絶対に持っていきましょう。

レインウェアさえあれば強風の稜線でも防風対策・防寒対策が取れますので、レインウェアは夏山でも必ず持参してください。

テント泊の天敵「結露」

夏と秋の風物詩、それはテント泊の結露です。

テント内外の温度差により水滴が付いてしまう現象です。結露がどの程度発生するか、その日のコンディションによりますが、テント泊ではかなりの確率で濡れてしまうため、速乾性の吸水タオルを用意しておくのも一考です。

私は面倒なので最近は持っていません。バッサバサとテントをなびかせ、できる限り結露を払い落としています。

繁忙期の「混雑」

8月のお盆シーズンは、9月のシルバーウィークや紅葉時期と並んで北アルプスが最も賑わう時期。人気の山域ではあり得ないくらい人出があります。できることなら日程をずらして登山に出かけたいですね。

登山道が狭い場所(キレットなどの危険箇所や槍ヶ岳山頂などの岩場)では渋滞が発生したり、テント場も早い者勝ちの争奪戦になることもしばしば。人気の山域や登山道は混雑するということを念頭に計画を立てるのが賢明です。

特に混むのは…槍ヶ岳、奥穂高岳、唐松岳、五竜岳、白馬岳、立山あたりですね。立山のようにキャパがあれば良いのですが、槍ヶ岳山荘のテント場などはあまり広くないので先着順となり、全て埋まると殺生ヒュッテまで降りる必要があります。唐松岳と五竜岳もそれほど広くありませんので要注意です。

夏山の登山装備

7月上旬は朝晩冷えることもありますが、基本的に7月〜8月は朝晩を含めて過ごしやすく、あまり難しいことを考える必要はありません。過ごしやすい気候なことが多く、初めてテント泊に挑戦したいという方にもおすすめです。

逆に9月に入ると一気に冷え込む日が出てきますので要注意。

夏の北アルプス装備
テント好きなものでOK。
シュラフ夏用でOK(モンベル#3など)
ダウン薄手のダウンがあると便利。
フリース朝晩の調整に必要。
インナー上下ともにお好みで。
レインウェア必須。

登山用途のものであれば、基本的にどんな装備(種類やブランド)でもOKだと思っています。

特に7月中旬〜8月下旬は暑いので、半袖半ズボンで歩いている方も多くいらっしゃいます。テントの種類やシュラフの種類もあまり心配せず、まずは手持ちのもので試してみて、あとは少しずつ装備を調整していけば良いでしょう。

ただし、急な雨や強風に備えてレインウェアだけは必ず上下用意してください。どれだけ気温が高くても、強風と雨に打たれると低体温症になるリスクが高まります。

行動着
ハット(帽子)日焼け対策に帽子は必ずかぶることをおすすめします。頭皮焼けちゃいます。
Tシャツ汗の量が凄いので必ず化学繊維のものを。
インナー(上)省略可能。吸水性の高い化学繊維のインナーなら汗を発散させ日焼け止めの対策にも◎
パンツ長ズボンでも半ズボンでもOK。気温を見て判断。
インナー(下)サポートタイツや薄手の化学繊維のものを。無くても大丈夫です。
就寝着
ダウン(薄手)薄手のダウンがあると就寝時や星空観察時に◎
フリース夜は多少冷え込むのでフリースまでは必ず用意しましょう。
Tシャツ日中から着たまま。
インナー(上)日中から着たまま。
パンツ日中から着たまま。
インナー(下)日中から着たまま。

天候や条件にもよりますが、山小屋に泊まる人であればかなりラフな格好でも良いのではないでしょうか。

遭難する可能性や緊急事態にも対応できる装備がベストではありますが、1年の中で最も自由度が高い季節であるのは間違いありませんね。

薄手のダウンやフリース、レインウェアを持っているだけで全然違います。私はモンベルのスペリオダウンをもう何年も使っていますが、あと少し現役で活躍してもらおうと思っています。フリースはパタゴニアのR2を使っています。レインウェアも同じくモンベルのストームクルーザーとバーサライトジャケットを持っていて、天候により使い分けています(夏山では99%バーサライトジャケット)。

北ア夏山登山のQ&A

他にも気になりそうなことをQ&A形式でまとめてみました。

補足的に使っていただければ幸いです。

Q:7月上旬はまだ寒い?

夏山登山で一番気を付けたいのは7月上旬。まだ梅雨明けしておらず、雨の日が多いと思います。

梅雨の中休みを見計らって出かける場合でも、気温が真夏ほど高くありませんので、寒さ対策として気持ち余裕を持った装備がおすすめです。例えば予備でインナーを1枚増やす、マットを少し厚手のものにするなど、それだけで就寝時の温度感は全然変わってきます。

Q:高山植物が一番きれいな時期は?

夏山といえば代名詞でもある高山植物。7月から8月の間は何かしらの高山植物を見ることができますが、一番おすすめは7月後半でしょうか。

7月中旬の梅雨明けあたりから咲く種類も量も増えます。鑑賞する場所やお目当てのお花の種類にもよりますので、見たい場所・見たい花が決まっている場合はあらかじめ調べておいた方がいいですね。

Q:落雷のリスクを下げるにはどうしたらいい?

午後遅くになったら山小屋やテント場の近くで大人しくしている他ありません。

理想は15時以降に稜線を歩かないことですが、必ずしもそうはいかないですよね。あとは上述の通りですが、積乱雲の発達具合や風の向きなどを考えて判断しましょう。

Q:おすすめの山域は?

基本的にどこでもおすすめですが、強いていえば西に位置している山域(飛騨側)はガスってしまう時間が長いです。

その最たる例が笠ヶ岳。この山は7月から8月の間、夕方はかなりの確率で雲に覆われています。一つ隣の穂高・槍連峰なら夕方遅くになると晴れることがありますが、笠ヶ岳のガスはなかなか晴れません。

ちなみに笠ヶ岳は9月がおすすめ。高確率で雲海も見れます。夏山で雲海が見たい場合、常念山脈が良いでしょう。朝のご来光と雲海をセットで見られる可能性が高いです。

Q:おすすめの日焼け対策は?

アネッサのような強力な日焼け止めを心からおすすめします。顔はもちろんのこと、首の裏側が焼けやすいので必ず塗布します。また、手の甲や腕も強烈に日焼けしますので必ず日焼け止めを塗りましょう。

今時の日焼け止めは液体タイプでもサラサラしていてありがたいですね。なるべく小さいタイプを持っていくと重荷になりません。

スティックタイプの日焼け止めも最近アウトドア雑誌で見るようになりました。均等に塗りにくいという難点があるようですが、リップクリームのようにサッと出してサッと濡れるのは便利そうですね。

意外に思われるかもしれませんが、日焼け対策・日射病対策には日傘が役立ちます。女性だと日傘の威力を知っている方が多いと思いますが、メンズは日傘を使う機会が日常ではないと思いますので夏の暑さがしんどい方は試してみてください。

使用者の感想いわく「日傘があるだけで超涼しい」のだそうです。アウトドア用なので軽いですし、夕立の際にも使えて便利ですね。

編集:山と溪谷社=編

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